今年、3月――。米国金融当局は、第5位の証券会社ベア・スターンズを公的資金投入で緊急救済した。当局の果断によって金融危機は去ったという認識が、株式市場を中心に広がり始めた。
その頃、ある日本の金融当局の首脳は、「(ベア問題は)まだ金融危機の第一波に過ぎない。日本の金融危機になぞらえれば、まだ1995年くらいのものだろう」と、極めて悲観的な見通しを述べた。にわかには信じられなかった。1997年の北海道拓殖銀行の破綻、山一証券の自主廃業、1998年の日本長期信用銀行、日本債券信用銀行の破綻のような未曾有の危機が、これから襲い掛かってくるというのか。その首脳は、言った。「それほど危機の根は深く、米国の金融当局は後手に回っている――」。
確かに、住宅バブルの生成や崩壊に「あまりに鈍感だった」(ECB幹部)FRBは、個別金融機関の経営悪化に対しても準備が不足していた。ベア・スターンズが窮地に落ちても、証券会社向けの緊急融資制度などのセイフテイネットは整備されておらず、ベア・スターンズが抱えた大量のデリバテイブ商品による負の連鎖危機を遮断する備えもなかった。つまり、システミックリスクを回避するには、慌てて公的資金を投入するしか術がなかったのである。
それから半年後の現在、米金融当局はリーマン・ブラザーズに公的資金を投入せず、破綻させた。ポールソン財務長官は、「3月とはまるで状況が違う。(リーマンに)公的資金投入など、一度も考えたことがなかった」と言明した。つまり、ベアのように救済しなくても、リーマン破綻によるシステミックリスクの発生、金融システム危機は回避できる、という表明である。
前述した証券会社向け緊急融資制度は導入、拡充されている。昨年末、一度は破談になった金融界に自主ファンドも設立され7兆4000億円の資金を集めた。リーマンの抱えるデリバテイブ商品による負の連鎖危機が起きる危険も少ないと判断したのだろう。同様に経営不安高まるメリルリンチは、バンクオブアメリカに救済合併させることに決めた。何より3月と違うのは、ファニーメイとフレデイマックという金融システムリスクの震源地に対して、公的資金投入という抜本策を講じていることだ。