かつては中国だけでなくグローバルでスマートフォンが大人気だった、中国・ファーウェイ。米国の対中制裁の矢面に立たされてスマホ事業が急速にシュリンクした後、次の柱として注力しているのがスマートカー事業だ。今春には「ファーウェイ」の名を冠したお披露目も行われた。そこに同社創業者が「ファーウェイは、自動車造りはしない」と宣言、混乱が起きている。果たしてファーウェイは、自動車事業をやりたいのか、やりたくないのか。(フリーライター ふるまいよしこ)
ファーウェイが「スマホの次」に選んだのは
スマートカー事業だった
「ファーウェイは、自動車造りはしない。完成車両の宣伝および外観上に『華為』『HUAWEI』の文字やロゴが出現することがあってはならない」
4月初め、中国の経済メディアが一斉に、精密機器メーカー「華為(Huawei)」(以下、ファーウェイ)の創業者、任正非氏が3月末に厳しい口調で社内に向けてこんな文書を発表したと報じた。その報道ぶりからして、それが社内に激震をもたらしたことが伝わってきた。
その数週前の3月8日には、ファーウェイが新興自動車メーカー「賽力斯(Seres)」(以下、セレス)グループと開発してきたスマートカー「AITO 問界」が突然、その名を「HUAWEI 問界」に変えたことが注目を浴びたばかりだったのだ。
スマートカー事業は、米国の制裁を受けて瞬く間にスマホ事業が苦境に陥ったファーウェイが、起死回生を懸けている新分野だ。特に前述の「問界」は、同社が開発したOS「鴻蒙(ハーモニー)」を採用するだけでなく、ファーウェイがその研究開発に約7000人の職員を投じ、車両デザインも担当した上、ファーウェイのスマホ直売店でモデルカーが展示されるという力の入れようで、メーカー名はセレスのままながら「ほぼすでにファーウェイ製のクルマ」とうわさされてきた。なので英語名が「HUAWEI」に変わったとき、「とうとう……」という声はあったが、違和感はないというのが外部の評価だった。
そこに、同社のカリスマ創業者、任正非氏自らが異議を申し立てたのだから、業界が騒然となったのは当然だった。
ファーウェイ創業者の「自動車造りはしない」宣言は
初めてではなかった
話は4年前に戻る。2019年にファーウェイがスマートカー向けソリューション事業進出を発表した際、「とうとうファーウェイが自動車造りに乗り出した」と騒がれたのを受けて、任氏は翌年の2020年10月に「スマートカー部品業務管理についての決定」と題した文書を発表している。そこできっぱりと、「ファーウェイは、クルマ造りはしない」と宣言し、「今後社内でクルマ造りを進言して、会社を混乱させる者はその職を追われることを覚悟せよ」とまで言い切ったのだ。