そこで主に質問したのは新人所長がおかしがちな失敗についてです。「所長に就任して1年目のときに経験した最大の失敗はどんな失敗でしたか」「その失敗を避けるにはどんな知識が必要だったと思いますか」「いまの自分だったら、どのような行動をとりますか」といったことを矢継ぎ早に質問しました。私の真摯さが伝わったからか、皆、忙しい中、1〜2時間もかけて、自分の失敗談を喜んで語ってくれました。

 いま私はハーバードビジネススクールで「リーダーシップと幸福」という講座を担当していますが、学生には、このような長時間のランチミーティングではなく、もう少し気軽な「コーヒーチャット」を数多く実施することを勧めています。

 まず自分が働いてみたい会社・業種の人たちの中から5人を選び、1回20分ほどの「コーヒーチャット」を5回行います。次にその5人に、「同じ業界の方をあと5人紹介してもらえませんか」とお願いし、さらに「コーヒーチャット」を繰り返します。すると5人+25人で合計30人に話を聞くことができ、転職する前に業界ネットワークを形成することができるのです。このように意識して人脈を広げることは、とても有益なリスキリング手法だと思います。

ハーバード大教授が「人脈づくり」の秘訣を伝授、学生にも勧める具体的手法とは『人生後半の戦略書』アーサー・C・ブルックス 著、 木村千里訳(SBクリエイティブ 刊)

佐藤 日本の読者がキャリア形成をしていく上で、『人生後半の戦略書』をどのように役立ててほしいですか。

ブルックス 私が本書を執筆する上で重視したのは、科学的な視点から幸福論を論じることです。人間の性質と幸福度との関係性を科学的に分析したデータなどを盛り込みながら、どの国の人々にとっても役に立つような本になるように心がけたつもりです。

 もちろん日本には日本独自の文化があり、私の考え方に共感しづらい部分もあることは承知しています。ですから、ぜひ率直な感想をお寄せください。日本の読者の方々から学び、教育者としてさらに成長したいと思っています。

 私自身は音楽家から大学教員へ、大学教員からシンクタンクの所長へ、そしてシンクタンクの所長から大学教員へと3回、大きなキャリアチェンジをしていますが、確実に言えるのは「人生は自らの意志と行動で能動的に変えられる」ということです。本書が日本の皆さんが人生をリセットしたり、新たなキャリアに挑戦したりするための一助となることを願っています。

アーサー・ブルックス Arthur C. Brooks
ハーバードビジネススクール及びハーバードケネディスクール教授。アメリカンエンタープライズ研究所(AEI)前所長。専門は公共政策、リーダーシップ。ハーバードビジネススクールのMBAプログラムにて人気講座「リーダーシップと幸福」を担当。ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、アトランティック等、数多くのメディアでコラムニストを務める。公共政策、幸福論についての著書多数。最新作『人生後半の戦略書 ハーバード大教授が教える人生とキャリアを再構築する方法』はアメリカでベストセラーになった。

佐藤智恵(さとう・ちえ)
1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。ディレクターとして報道番組、音楽番組を制作。 2001年米コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。主な著書に『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書)、『スタンフォードでいちばん人気の授業』(幻冬舎)、『ハーバード日本史教室』(中公新書ラクレ)、『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(日経プレミアシリーズ)、最新刊は『コロナ後―ハーバード知日派10人が語る未来―』(新潮新書)。講演依頼等お問い合わせはhttps://www.satochie.com/