タンパク質の摂取量を減らす
低タンパク質加工玄米
「日本人は肉や乳製品からタンパク質をとり過ぎ、米を食べなさすぎなのです。これが透析患者を増やす大きな原因です」
これまでもタンパク質制限食は慢性腎不全の治療に使用され、成果を上げている。タンパク質摂取の基準値を見直すことから始めるべきだと渡邊氏は言う。
「厚生省が推奨するタンパク質量は、65歳以上の男性の場合、体重1キロあたり0.8グラムです。体重が70キロの人で56グラム。だから、男性は60グラム、女性は50グラムの摂取を推奨しています。ところが食品基準の国際機関であるコーデックスでは、男性で1日50グラムを推奨しています」
つまり、日本人のタンパク質摂取量は不足どころか、むしろ多いのだ。そのために腎臓に負担がかかり、慢性腎臓病が増えていると渡邊氏。
「『国民健康・栄養調査』によれば、令和元年の日本人のタンパク質摂取量は男性で71.4グラムです。これは1950年と同水準のため、タンパク質をもっと取れと厚労省は言っていますが、すでに国際基準より多いのです」
筋力不足から寝たきりになる老人が少なくないため、タンパク質を体重1キロあたり1グラム以上取ることを勧める動きもある。だが、多すぎるタンパク質のせいで腎臓病になっては意味がない。
タンパク質を極端に減らすのではなく、あくまで国際基準に沿って、食事からのタンパク質摂取量を減らすことで腎臓の負担を減らし、慢性腎臓病を改善すべきだというのが渡邊氏の主張だ。
食事から「タンパク質を減らす」と言うのは簡単だが、現実としては難しい。豆腐のタンパク質が何グラムで刺し身が何グラムだからハンバーグは半分で、といった栄養の計算が日常生活でできるわけがない。
厚労省と国際基準が推奨する1日当たりの摂取量の差は、10グラム程度であり、減らす目安としてはそれぐらいで十分。そこで渡邊氏らが着目したのが米である。
「日本人、特に高齢者の方は必ずお米を食べます。そこで玄米を乳酸菌で処理することで米からタンパク質だけを減らして他の栄養成分は残した『低タンパク質加工玄米』を開発しました」
100グラム当たりのカロリーはほぼ変わらず(白米157キロカロリーに対して156キロカロリー)、タンパク質は白米の2~2.5グラムから0.2~0.5グラムまで減らし、さらに腎臓に負担をかけるカリウムとリンも大幅にカットした。
おかずを変えることなく、主食のお米からタンパク質を抜くことで、1日のタンパク質摂取量を6~10グラム減らすことが可能になったのだ。
「高齢化が進み、医療費は現役世代の大きな負担となっています。2021年度の医療費は42兆965億円、介護保険料は11兆4230億円かかっていますが、これは20年前の2.5倍にもなります。透析患者には年間500万円の医療費がかかりますが、健康保険により患者の負担は毎月1万円ほどです。医療費の上昇を止めるには、透析のように莫大な医療費が必要になる治療を減らさなければなりません」