ソニーCMOSセンサーの奇跡と
顧客の需要を想定する力
水平分業と垂直統合については、似たような話がソニーにもあります。
ソニーにとってイメージセンサーを中心とした半導体事業は現在、収益の柱の1つとなっています。しかし、一時はその事業を売却しようとするほど、会社にとって“お荷物”な存在と見なされていました。売却先がなかったため、できるだけ資産を持たない軽量な事業にしようと工場を売却し、ファブレスモデルへ移行。ギリギリのところで半導体事業がソニーの中で生き残ることとなりました。
ソニーはもともとカメラなどの製品が強く、民生用ビデオカメラのCCDセンサーでは圧倒的なシェアを誇っていました。しかし、これをCMOSセンサーへシフトさせるよう自ら仕掛けています。自身が築いたCCD市場を壊し、独自技術による高性能なCMOSセンサーを世に送り出すことで、イメージセンサー市場におけるシェアを守ったのです。
ソニーも単にイメージセンサーを持つだけでなく、実際に製品として使われる部分を自身で手がけており、その点で垂直統合型に近いところがあります。
2010年時点のイメージセンサー市場は、金額ベースで携帯電話向けが36%、デジタル一眼レフカメラ向けが27%、デジカメ向けが21%、監視カメラ向けが12%、カムコーダー向けが3%という構成でした。当時のソニーはカムコーダーでは98%(数量ベース)という高いシェアを持っていましたが、これはイメージセンサー市場全体の中では3%しかない領域です。市場の大きい携帯電話や一眼レフ、デジカメのシェアを取りに行かなければ、伸びしろはありません。
ソニーの半導体事業部は、自社の他の事業部や他社にCMOSセンサーの採用を働きかけ、それぞれの場で必要な機能を加えることで、普及を図ることに成功しました。他社製品でもデジカメで動画を撮影して楽しむといったユースケースを作ったほか、一眼レフ機へのセンサー採用の働きかけも行い、それをきっかけにソニー社内でもαシリーズへの採用が決まっています。
つまり、実際に使われるシーンをしっかり想定し、その需要を満たすためにどうすればいいか、部品の方を改良するというアプローチを取っていたということになります。