『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

働かない人、派閥争い…「雰囲気が悪い組織」に悩むリーダーが知るべき古典的研究【『独学大全』著者が教える】Photo: Adobe Stock

[質問]
 大学生です。現在、学内の部活で改善したいことが2つあります。

 1つ目は、仕事をしない3年生です。

 私たちの部活では3年生が団体の運営の中枢を担うのですが、最低限の仕事もしない3年生が数名います。一部の重要な役職を担う人に、指摘しても真摯に向き合わない、事態の重要性を理解していない、改善するように促しても建設的な改善計画を立てることができない、といった特徴が見られます(人数不足といった事情もあります)。結果、彼ら彼女らのフォローを他の役職の団員がすることで、一部の人間に負担が集中しているというのが現状です。こういった人たちに役職業務への認識、態度を改めてもらい、集団、チームとしての生産性、質の向上を図りたいのですが、なにかそういったことに関して学べる書籍をご存じありませんか。

 2つ目は、団体内での派閥、コミュニケーションの問題です。

 主に2年生に、一部の部員同士で固まり、他の部員とはあまり交流をしない傾向が見られます。もちろん仲の良い人同士のグループができること自体は悪いことだとは思わないのですが、2年生全体で1つの業務をこなしたり、1つの目的に向かって活動する際に派閥間での軋轢が生まれてしまっています。

 具体的には、他の人のアイデアを受け入れられない、とりあえず否定から入る、他の人の意図を汲み取ることができない、自分の意見が絶対的だと信じ押し通そうとする、などが挙げられます。客観的に見ていると、どの子らの言い分にも正当性があるのですが、彼らがそれらを擦り合せることができず、また集団全体の目的に照らし合わせて判断を下すというより、個人間の好き嫌いの感情で判断しているように感じられます。他者や他者の考えを尊重することができない、裏にある意図を汲み取ることができないなど、人間的、精神的な未成熟を感じます。

 彼らが異なる価値観を持つ人を尊重し、建設的に話し合いをし、人間的にも精神的にも成長し、集団としての結束力を高められるように促したいのですが、何か良い書籍はご存じでしょうか。

 もちろんこういった問題は、彼らだけでなく、私たち上位年次生、ひいては部全体の問題として認識しております。集団のマネジメント法、自分と向き合い、人の気持ちを慮ることを学べる方法などの手がかりになりそうな書籍をご存じでしたら、ご教示願いたいです。

組織内に「人間関係のメンテナンスをする人」はいますか?

[読書猿の回答]
 長文です。マネジメントの古典的理論に「組織均衡理論」があります。組織がメンバーに提供する誘因がメンバーが組織のために行う貢献を上回る時、メンバーの動機や目標が満たされ組織は存続するというものです。

 平たく言えば見返りが得られないとメンバーは組織に貢献しない、見返りが少しなら少ししか貢献しないという話です。あなたの組織はこの誘因と貢献のバランスが崩れ、悪循環に陥っている状態だと思います。

 誘因には、給与の様な「金銭的誘因」、仲間意識や交流の喜びのような「関係的誘因」、組織の理想像やミッションに奉ずることや使命感を満たすことのような「理念的誘因」などがあります。

 実績と伝統のある部活動はそこに所属することを望む/喜びとするような人たちが集まるので、どうしても理念的誘因を中心とする運営となりがちです。組織のミッションに一体感を持つ、外的な動機づけを必要としない意識の高いリーダーやメンバーが育つ一方で、他の誘因が等閑視される危険があります。

 金銭的誘因はそのやり取りが目に見えコントロールしやすい利点がありますが、これに対して関係的誘因や理念的誘因の供給は偏在化しやすく不安定になりがちです。
 例えば組織の中心メンバーが打ち込むほどには周辺メンバーは組織の理想やミッションにコミットしないことは常態であり、理念的誘因の効き目は中心メンバーと周辺メンバーでは差があることが普通です。
 そのため、金銭的誘因が使えない組織では、理念的誘因を関係的誘因が補完することで、周辺メンバーからの貢献が薄くなり過ぎないようにすることが多いです。

 うまく行っている組織では、組織運営の中心から観れば傍流であまり目立ちませんが、関係的誘因が枯渇しないよう人間関係のメンテナンスをしている人がいるものです。
 陽の当たらぬこの役割を担う人がいなくなったり、メンテナンスを止めてしまうと、人間関係の問題が頻発しだし、理念的誘因優位型組織の脆弱性が露呈します。
 まずは関係的誘因によって繋ぎ止められていた周辺メンバーの貢献も減りはじめ、その分の負担が一部の人に集中し出し不満が蓄積します。
 こうして周辺メンバーへの有形無形の非難が高まり、ますます周辺メンバーをつなぎとめていた関係的誘因を掘り崩して、サボタージュや脱退者が続出するようになります。

 このように誘因と貢献の低下は、お互いがお互いをもたらす悪循環を形成します。最初は局所的で小さな誘因の低下が、悪循環ループを回るごとに増幅拡大して、組織全体に広がっていきます。
 しかし理念的誘因に奉じる中心メンバーには、関係性誘因の重要性を理解することが難しい。組織のアイデンティティをつくり、実際に組織のミッションと一体化した理念的誘因の重要性は疑い得ません。そして中心メンバーが頻繁に接するのは同じく理念的誘因を原動力にする他の中心メンバーだからです。なので、周辺メンバーが必要な貢献を怠るのは、我々のように理念的誘因を原動力しないからだと考え、メンバーの意識改革などという悪手に出て、余計に関係性誘因を破壊し干上がらせることすらあります。

 そろそろまとめます。
 マネジメントはメンバーを操り人形にする魔法でも、メンバーに組織のミッションを注入に有する洗脳手法でもありません(それに近いものもありますが、未来ある若い人にお伝えするようなものではありません)。
 突き放すばかりではいけないので参考文献をあげておきます。若島孔文『リーダー事始め』を。問題を解決することでかえって問題を悪化させる悪循環に介入し、解きほぐす理論と技がてんこ盛りです。少し難しいところもあるかもしれませんが、その際にはまたご質問を。