「海馬だけ」が有酸素運動で
脳内で体積を増やせる

 実際にどういう人が利用しているのか。同社の代表取締役社長・樋口彰氏にも伺った。

「65歳以上の高齢者の場合、物忘れが多くなったと言う方が多いです。30代40代の比較的若い方は、10年前に比べて記憶力が下がってきた、自分の脳の健康状態や萎縮状態を知りたいと、定期的に利用されるケースが多いですね」(樋口彰氏、以下同)

認知症は「予防できる病」になる?脳の異変を察知する新手法とは生活習慣を改善することで、神経細胞が新しく生まれる「神経新生」が発生し、海馬の体積を増加させることが可能となる

 BrainSuiteには、受診後に不安を感じる利用者のためのオンライン相談のサービスもあるという。

「多くは、どのように生活習慣を変えればいいのか、という相談です。脳には、記憶力のほか、判断力、注意力など多様な働きをする領域が数多くありますが、実は“海馬だけ”が、神経細胞が新たに生まれることが可能といわれています。つまり、海馬は体積を増やすことができるのです」

 これは「神経新生」と言われ、神経幹細胞などから新たな神経細胞が分化する現象を指す。従来は成人になると新たに神経細胞は生じないと考えられていたが、記憶に関わる海馬では、神経新生が起こることが、すでに確認されている。海馬の体積を増やすことが、有効な認知症対策になるというのだ。

「どうすれば神経新生が起こるかというと、一番は有酸素運動です。ジョギングや水中ウオーキング、卓球、フォークダンスなどのスポーツを行うことも良いとされています。70代の方でも神経新生が起こった事例もあり、研究で証明されています」

 動脈硬化が海馬の体積減少に影響を与えることも明らかになっている。

 高血圧、糖尿病、脂質異常症などに罹患(りかん)しないよう、若い頃から生活をコントロールすることが何より重要だ。さらに肥満、短時間睡眠、ストレス過多、飲酒、喫煙などが脳を萎縮させることも分かっている。バランスの取れた食生活、十分な睡眠、ストレスをため込まず解消する、知的な好奇心を持って活動する。こういった生活が何より重要とのことだ。

 CogSmartは、現在、アフリカのモロッコで、BrainSuiteの効果を実証中である。

「アフリカ、中東、中国などは高齢化社会を迎えるところであり、これからの30年で認知症の患者が20倍に増える、と予測されている国もあります。そのためBrainSuiteが役立つのではないかと考え、海外へも積極的に展開しているところです」

 認知症の治療薬は、現在、世界各国で開発が進められている。根本的な原因を抑える画期的な治療薬が出てきているものの、現状は症状の増悪を抑えるレベルにとどまっている。

 現時点で、私たちにできるのは、脳の状態を定期的に確認することで生活習慣を改め、認知症を予防していく。これに尽きるだろう。

(吉田由紀子/5時から作家塾(R))