徹底的に「考え続けていた芸人」とは?

 それは天竺鼠の川原くんです。ナスの被り物がトレードマークの人気芸人です。彼はすぐには理解できないようなハチャメチャなネタをすることで有名で、世間一般では行き当たりばったりの破天荒な芸をしていると思われがちです。

 しかし、実際は誰よりも論理派であり、舞台裏で徹底的に考え抜くタイプであるのは有名な話です。彼が生徒だった頃も意味不明なネタがほとんどでしたが、ネタの理由を聞くと、ちゃんと自分の世界「天竺ワールド」を持っていました。行き当たりばったりではなく「飛んだネタでも、どこまで理解してもらえるのか」のボーダーラインを知るためにネタをしていました。

 つまり、講師である私はボーダーラインを知るための実験台にされていたのです。ひたすら「考えること」を続ける川原くんだからこそ今や人気芸人のひとりになれたのでしょう。

 かく言う私自身も、駆け出しの頃は、分析が甘く、なんとなくおもしろそうだからと場当たり的にネタを考えていたことがありました。そのため、仕事のクオリティに波があり、安定感を出すのに苦労しました。

 そのことに気がついてからは、調子の波をなくすために多くの漫才師のネタをビデオやカセットに録音してひたすら分析をして、「笑いのパターン」について考え続けました。大変でしたが、お笑いで飯を食っていく「プロの仕事」だと自分に言い聞かせました。

「考える」ことがクセづくと、これまで漠然と感じていたことにもしっかりとした理由があることに気がつくはずです。どんな仕事をするうえでも、それは大きなアドバンテージです。