ビジネスをスムーズに進めるには、交渉力を高める必要がある。自分は交渉力が弱点になっているという人と話すと、無意識のうちの働く心理がその弱点につながっていることが少なくない。そこを意識することで、交渉力は格段にアップする。今回は、無意識のうちに働く心理への気付きを促すことにしたい。(心理学博士 MP人間科学研究所代表 榎本博明)
「疑うのは失礼だ」は日本人的な心理?
数年前、大手建設会社が、土地の持ち主を装って不動産売買の詐欺を働く地面師集団にだまされ、50億円以上の損害を被るという事件が明るみに出て社会に大きな衝撃を与えた。 その事件では、土地の持ち主を装う売り主の身分確認をきちんとしていなかったことが致命的な結果につながっていた。怪しい人物が動いていると知らせる手紙が来たにもかかわらず、怪文書扱いで無視をして、取引を進めたのだった。
身分確認をしつこくするのは失礼に当たる、そんなことをして気分を害してはいけないといった遠慮が働いたのだろう。数十億円もの大金を動かす際にも、気まずくなるのを避けようとして、身分確認をするのを躊躇(ちゅうちょ)してしまうのである。
それほどまでに私たち日本人の心には、「気まずくなるのはまずい」という心理が強く刻まれているのである。
グローバルにビジネスを展開する時代に、このような心理を無意識に抱えているのは、非常に危険なことと言わねばならない。海外では、当たり前のようにだまし合いは起こっており、むしろだまされるほうが悪い、という考え方が主流だ。だまされないように気を付ける姿勢は必須と言ってよい。もちろん国内勢を相手に交渉する際にも、気まずさを避けて確認したいことも確認せず、要求すべきことも遠慮するようでは、相手のペースで進められてしまう。
私たち日本人は、ともすると相手を疑うのは失礼だといった思いに縛られ、きちんと物事を検討せずに相手の要求を受け入れてしまいがちである。そうした文化的に植えつけられている心の癖を自覚し、しっかり考えて行動する必要があるだろう。