実際、国防七校が関与する過去の技術流出事例は多くある。
一般財団法人安全保障貿易情報センター(CISTEC)輸出管理アドバイザー(当時)森本正崇氏の「対中技術流出事案の分析」によると、HEU(後のハルビン工程大学)の研究室長であったA氏は、2002年から2014年にかけて、ハルビン工程大学の教授などの指示に基づき、無人潜水艇や、遠隔操作無人探査機、自律型無人潜水艇といった潜水艇のシステムや構成品を、HEUや他の政府機関のために、米国企業などから購入し、中国に送付していた。
A氏は、HEUの教授X氏や准教授らからの発注に基づき、米国、カナダ、欧州の企業から物品を購入し、HEUや人民解放軍海軍などの潜水艇開発のために、X氏らに輸出した。その際、A氏は経営するIFour International, Inc.をフロント企業とし、同社名義で調達活動をしていたという。
その他、2018年6月、米国検察当局は、対潜水艦戦闘に使用可能なハイドロフォン(水中聴音機)を入手するために共謀したとして、中国の西北工業大学を米国輸出法違反で起訴している。
また、同大と共謀し、マサチューセッツ州在住の中国人および同人が率いる海洋関連機器の輸入会社(中国・青島市)が、2015年~16年にハイドロフォン78個を商務省の許可を得ずに同大に輸出したという。
このように、単に留学生や研究室の人間が関与するだけではなく、国防七校の大学自体が主体となって、関与し、さらにフロント企業やビジネスマンを駆使して巧みに技術窃取を行っている。
国防七校とさまざまな
提携をする日本の大学
2021年8月時点で読売新聞が確認したところ、国防七校には日本人研究者が8人所属しており、そのうち、ミサイル開発などを行う北京航空航天大に4人の日本人が所属していたという。
そして、国防七校との関連は確認されていないが、日本の大学・研究機関を通じた技術流出事案として、朝日新聞が2021年12月12日に以下の事例を報じている。
「朝日新聞が入手した同資料によれば、日本の国立大学や国立研究開発法人に助教授や研究員などの肩書で所属していた中国人研究者9人は、ジェットエンジンや機体の設計、耐熱材料、実験装置などを研究。(中略)このうち流体力学実験分野の中国人研究者は、1990年代に5年間、日本の国立大学に在籍。帰国後、軍需関連企業傘下の研究機関で、2017年に極超音速環境を再現できる風洞実験装置を開発。2010年代に日本の国立大学にいた他の研究者も帰国後に国防関連の技術研究で知られる大学に在籍するなど、9人は帰国後、研究機関などに所属したという」
先に述べたように、実際、日本の大学で優秀な研究・成績を収め、その知見・ノウハウを持ってファーウェイなどの人民解放軍に強いつながりを持つ企業に就職する例も非常に多い。
また、オーストラリアのシンクタンクが指摘しているように、中国人民解放軍関係者がその目的を秘して留学生の身分で日本の大学や研究所に入り込んでいる可能性は、海外での実例を見ても排除できない。さらに、善意の人間(留学生)が後に人民解放軍などの関係者に接触されて支配下に入るような事例が相当数確認されているなど、そのスキームは複雑となっている。
中国の「千人計画」もその手法として知られるところだ。
千人計画とは、1990年代に始まった海外の中国人留学生を呼び戻して先端技術を中国国内に取り込む「海亀政策」に倣い、優秀な外国人研究者を巨額の研究費や報酬、地位を与えて中国に誘致し、そのノウハウ・研究成果を「メード・イン・チャイナ」としてしまうもので、同計画には複数の日本人の参加も確認されている。