「死はなんでもないものです。私はただとなりの部屋にそっと移っただけ」。
それは、ぼくが欲していた言葉でした。そしてその言葉は、ぼくが叔父や叔母や、室戸にいる親戚たちに届けたい言葉でもありました。
この一篇の詩で本をつくろう。そのために出版社をつくろうと考えたのは、それからすぐのことです。
それまで編集の仕事をしたことがなかったのにもかかわらず、ぼくは出版社を立ち上げました。
それは一度死んでしまった自分のこころを、蘇生する試みでもありました。
結局、その詩の本ができたのは、会社を立ち上げてから二年四カ月後のこと。
右も左もわからないまま本をつくり、完成したあとも、これで本当によかったのだろうか? と自問しました。
けれど、本が書店に並んですぐに、ぼくと同じような境遇にいた読者から感謝のことばをもらい、そのときにようやく、この本をつくってよかった、と思うことができました。
従兄が亡くなって、もう八年になります。
ぼくはいまもひとりで会社を切り盛りしていますが、不思議なことに、さみしいと感じたことは一度もありません。
それは、従兄がぼくのそばにいてくれているからだ、と思っています。
来月、また室戸へ行き、従兄のお墓参りをしてくる予定です。
「スマホをやめてみたら……」
(2017年8月掲載)
紹介する本:『チボー家の人々』 ロジェ・マルタン・デュ・ガール 著 山内義雄 訳(白水Uブックス)
今年の二月に長年つかっていたスマートフォンをやめて、ふつうの携帯電話に戻しました。それからはしばらく「不便だなあ……」と思いながら、携帯電話でインターネットのニュースやSNSを見ていましたが、それもこの七月にやめてしまいました。