運輸セグメント増益の主要因は
定期外利用と運賃値上げ
主要因である運輸セグメントの増益についてもう少し細かく見ていくと、定期外利用の回復と運賃値上げの二つの影響が強いことが分かる。
輸送人員と旅客収入の予想を公表していない名古屋鉄道、西鉄、東京メトロを除く13社の輸送人員の増減率を見ると、定期輸送人員が減少するのは近鉄だけで、航空需要の回復により空港勤務者が増加する京成、相鉄・東急新横浜線開業で通勤利用が増加する相鉄は5%以上増加している。その他の10社は概ね1~4%の増加だが、その多くは通学定期によるもので、コロナ以降20%前後減少した通勤定期利用の回復は期待していないようだ。
定期外人員は空港利用者の増加を背景に京成が16%増、南海が13%増、京急が8%増。相鉄・東急新横浜線が開業した相鉄は9%、インバウンド需要が戻りつつある京阪が7%、この他、利用回復が見込めるとして阪急と阪神が10%以上の増加を予想するなど、外部環境の変化を象徴する数字となっている。
一方、収入の面から見ると構図は変わってくる。というのも定期収入と定期外収入の増加率は、京王を除く12社が輸送人員のそれを上回るからだ。
収入の増加率が輸送人員の増加率を上回るとは、言い換えれば利用者の単価が増えることを意味する。今回の業績予想では、3月18日に平均12.9%の運賃改定を実施した東急、バリアフリー料金(10円)を導入した小田急、西武、東武、相鉄。4月1日に平均17%の運賃改定を実施した近鉄、バリアフリー料金(10円)を導入した京阪、阪急、阪神が値上げ幅に応じた増収を見込んでいる。
加えて10月1日には南海が平均10%、京急が平均10.8%、京王が平均13.3%の運賃改定を予定しており、小田急も特急料金を平均22.2%値上げする予定で、半期分の増収が織り込まれている(ただしまだ運賃改定申請が認可されていない京王は業績予想に反映されていない)。
東急 定期輸送人員 4%増 収入15%増
定期外輸送人員 2%増 収入15%増
近鉄 定期輸送人員 2%減 収入11%増
定期外輸送人員 4%増 収入19%増
南海 定期輸送人員 2%増 収入8%増
定期外輸送人員 13%増 収入24%増
京急 定期輸送人員 1%増 収入3%増
定期外輸送人員 8%増 収入14%増
もう一つがコロナで利用が大きく落ち込んでいた、観光客、および、空港アクセスなど乗車距離が長く、有料特急が運行されている路線の乗客が戻ってきたことによる運賃輸入、料金収入の単価増だ。例えば京成は定期外利用者の単価が320円から377円へ57円増加。近鉄は運賃改定に加えて特急利用者の増加もあり、単価は416円から480円へ64円も増加を見込んでいる。同じく南海も空港アクセスの回復で定期外単価は335円から368円へ33円増加する予想だ。
さて、ここまで2022年度決算と2023年度予想を比較してきたが、今年度はどのようなスタートを切ったのか。東急の4月の月次情報を2019年同月と比較すると、定期は輸送人員が79.3%、収入が82.7%だが、定期外では輸送人員が96.8%とかなりの水準まで戻っており、収入に至っては111.7%となり、コロナ前を上回った。
運輸収入全体でも同99.1%となり、運賃改定により収益性はコロナ以前まで回復したことになる。ただこれは2022年度比で約15%の増加であり、改定率を上回っていることから、コロナ特例で認可された運賃改定の条件のひとつである5年後の見直し議論につながる可能性もある。
はたしてもくろみ通り計画は進むのか。今年は反転攻勢ののろしが上がるだけでなく、アフターコロナの鉄道グループ経営の在り方そのものを占う一年になりそうだ。