「日本の政治家が劣化したから、その相手をする官僚も劣化した。今、優秀な人材は官僚にはならないでしょう。メディアがしっかりして、日本の問題点をきちんと指摘しなきゃいけないのに、その役割を放棄している」
「政治の劣化は国民の責任でもありますよ。選挙が人気投票になってしまうのは自然の成り行きなので、イギリスでは各政党が候補者選抜をしっかりやって、おかしな人が出てこないようにしている。しかし日本では、自民も維新もタレント候補を連れてきて、有権者をばかにしているでしょう。なのにそれを選んでしまう有権者も愚かです。タレント候補に頼っているような政党はろくなことがない。トランプが大統領に選ばれたとき、パトリック・ハーランさんが『恥ずかしくてアメリカ国民をやめようと思った』と発言していたけれど、僕も今の日本の政治家を見ていて日本国民をやめたくなりますね」
「今の日本は、
先進国の中では二等国です」
日本の「劣化」は、英国在住の黒木にとって肌で感じるものだという。
「国民年金なんて、日本の支給額は年間せいぜい70万円ですが、イギリスは年間180万円が支給されます。今回の帰国フライトでも、欧州からの便に乗っている客は95%欧米人。インバウンドが復活しているのは、日本の物価が異様に安いからで、例えば欧州でもギリシャやポルトガルを見ても分かるように、世界的に物価が安いのは“貧しい国”である証しです」
黒木が海外へ出た1988年、日本はバブル経済の絶頂期だった。
「当時、日本はエコノミックアニマルなんて呼ばれていたけれど、その後、日本文化や観光資源の豊かさ、日本人のきれい好きや治安の良さというのは世界に広く知られてきて、リスペクトを受けるようになったのはすごくいいことだったと思います。外銀のバンカーが東京駐在の辞令をもらったりすると、昔は『なんで日本なんか行くんだ?』なんて言われたのが、2000年代になるとうらやましがられたという話もあるくらいです」
そして黒木は、厳しいひと言を発した。「でも、今の日本は先進国の中では二等国ですよ。清潔で勤勉な国民性ではある。でも円が弱くなり、国力としてはすごく衰えて、インバウンドの隆盛以外、いいことは何にもないような気がします」。
それは、ロンドンで邦銀金融マンをやめて専業作家になると決め、ロンドンに不動産を購入して以来29年、海の向こうから作家として故郷日本を、日本の「失われた30年」を見つめてきた、黒木ならではの重い言葉だった。
国力が明らかに衰えている、その中で若い世代にできることはなんだろう。
「日本はまだ国際的に学力は高くて、今はむしろ若者にとってチャンス。本人次第かな。やっぱり自分がその仕事の場で可能な限りの、一番大きくて自分好みの絵を描くように努力したらいくらでもチャンスはありますよ。やっぱり、夢がない仕事って面白くないですね。夢は自分で持つものだと思うし」
「今、日本は子どもを競争させないような教育をしているでしょう。順位を付けないなんて、おかしいですよ。競争に耐え得る人間にしないと、生き残れない。生きるって、競争ですよ。動物だって、懸命に自分を魅力的にして異性を引きつけて、自分の遺伝子を残そうとするでしょう。本来の動物のあり方を否定するような教育、おかしいんじゃないかな。子どもの能力をそぐような結果になっています。それは教育といえるんですかね」