書き続ける元学生駅伝走者
「長くずっと努力するのは得意なんです」

 黒木だからこそ見えるものがある。伝えられるものがある。

「欧米メディアは政治家に対して追及が厳しいですよ。特に新聞は『社会の木鐸たれ』と言われるのに、日本のメディアは記者クラブによってがんじがらめにされていて、政治家に対して弱腰。政治家に敢然と物を言うのはフリーのジャーナリストたちで、既存の大手マスコミはメディアとしての役割を放棄している。財務相の次官の女性記者に対するセクハラ疑惑みたいなものには妙に厳しいけれど、そんなものは多少極論すればどうでもいい問題であって、もっと大きな問題はたくさんあるでしょう」

「海外にいると、日本で起こっていることが客観的に見えるんです。日本にいると日本のことしか見えないから当たり前と思ってしまって、批判的な目線で見られない。コロナ対策にしても、感染拡大当時から日本のウェブメディアに寄稿し、僕の考えを発信してきました。それが僕の役目だと思ったので」

 かつては箱根駅伝を走った長距離ランナーだったが、その頃の経験は作家としての執筆活動にも大きな影響を与えているという。「どんな書き手もみんな同じように努力してるし、やっぱり並の努力じゃ抜きん出ることはできないです。自分よりも工夫や努力をしている選手に勝てなかった、と長距離でちょっと後悔した部分もあって、だから作家になってからはそういう後悔がないようにしたいと思ってきました」

 専業作家としてのキャリアは20年だが、黒木亮といえば多作な作家とのイメージがある。「長距離ランナーとしてもそうだったのですが、爆発的な瞬発力はないんですけれども、集中力を持続して力を抜かずにずっと長くやっていくことができるので、そういうスタイルで今もやってますね。力を抜いたら終わりだ、と自分では思ってるんで」。学生時代の長距離走とヤングバンカー時代の粘りと機転、それら全てが黒木亮という作家をこの場所まで連れてきたのだろう。