「デジタル・ツイン」の加速に期待が高まる

 Vision Proの投入によって、世界の「デジタル・ツイン」(リアルとバーチャルの同時進行)は加速するだろう。現時点で、アップルは必要に応じたヘッドセット型ディスプレー使用を念頭に置いているようだ。発表されたVision Proのバッテリー稼働時間などは、それを示唆する。

 需要の拡大が見込まれる一つの分野は、ビジネス領域だ。アップルの発表した内容に基づくと、Vision Proを使うことによって、離れた場所にいる人と同時に作業をしたり、議論したりしやすくなると期待される。それは、工場の省人化、自動化(FA、ファクトリー・オートメーション)への取り組みや、テレワーク時のミーティングなどの有効性を高めるだろう。

 また、家庭でもVision Proが人々の満足度を高める範囲は増えそうだ。例えば、自宅での映画鑑賞が趣味の人は、大型のテレビやスクリーン、音響システムを購入するなどして、ダイナミックかつ鮮烈な映像体験を楽しむ。Vision Proを用いることで、部屋の確保や機器の購入などの負担が軽減できるだろう。

 一方、Vision Proの形状やサイズは、寝転びながら映画を見るには適さないように見える。アップルは常時、わたしたちがVision Proを使うことは、まだ想定していないようだ。そのため、最先端のチップ実装も見送られたと考えられる。

 Vision Proはアップルが設計、開発を行い、「M2」チップが搭載されている。センサからの入力データを変換する「R1」チップも搭載された。特に、M2チップは、最新のチップではない。昨年のWWDC22にてアップルはM2を発表した。M2はTSMCが構築した回路線幅5ナノメートル(ナノは10億分の1)の第2世代ラインで生産されている。

 WWDC23で発表された「M2 Ultra」チップは、2023年1月発表の「M2 Max」を上回る性能を実現した。M2 Ultraは、新型のMac Proなどに搭載される。アップルは既存のチップ設計、開発のノウハウを空間コンピューティングに応用し、収益分野の拡大を目指し始めている。