どうしてもストレスを感じてしまいがちな現代社会。何かに“怒る”自分に嫌気が差してしまう人も少なくないはず。現役の僧侶である草薙龍瞬氏は、ある男性のエピソードを例に「怒りを手放す技術がある」と語る。本稿は、『ストレスと闘う日々にやすらぎを取り戻す 怒る技法』(マガジンハウス)の一部を抜粋・編集したものです。
怒りを言葉にして
相手に“返す”
怒りの原因が相手にあるなら、相手に返さねばなりません。相手発の怒りは、相手に返すのです。
返すとは?――怒りを返しては、ただのケンカになってしまいます。実は、もっと効く技があるのです。
その中身をお伝えする前に、1つのエピソードを紹介しましょう。「自分がこの人ならどうするか?」という視点で、読んでみてください。
その男性は、40代後半の会社員でした。相談に来た理由は、職場の人間関係に恵まれず、閑職に追いやられた、それが不満というものでした。
男性の口元は、見るからに“への字”です。眉間には深いシワが刻まれています。周囲に敬遠されるのも仕方ない、と思えてくる雰囲気です。
この怒りは、どこから来るのか?原因は、いったい誰にあるのか?思い当たる記憶はありますか、と尋ねてみました。
男性が語り出したのは、父親のことでした。父は、いつも怒っていた。突然怒鳴ったり殴ったり。なぜあんな仕打ちを受けたか、今もわからない、と憤然と語ります。
成長した後も、男性は、怒りのはけ口とするかのように、勉強や趣味の格闘技に打ち込みました。しかし怒りは消えません。ずっと何かに怒り続けて、「何もかも楽しくない」という今日に、たどりついてしまいました。
聞く限りでは、父親は怒りと傲慢の塊です。何が気に入らないのか、わからない。気分に任せて怒鳴って暴れて、いっさい反省無し。男性が結婚して、孫を会わせに行っても、「おまえの父親は、人生の負け組なんだぞ」と、せせら笑って言うような人でした。
なんと子供を見下した、傲慢かつ身勝手な人物か。男性の怒りの原因は、どうやら父親です。まさに父親発、相手発の怒り――父親が運んでくる言葉や仕打ちに、ずっと怒ってきたのです。私は尋ねました。
「あなたは、その怒りを解消したいですか?」
「もちろんです」
「だとしたら、やらなければいけないことがあります。それが何か、わかりますか?」
さあ、と男性は首をかしげます。私はこう伝えました――。
「父親に話をしてください。怒りがあるなら、伝えること。父親に言いたかったことを、ぜんぶ言葉にしてください」
「ケンカ上等」が
好転につながることも
男性はうろたえて、こう言いました――「いや、ずいぶん昔のことですし」「親もいい歳ですし」「今は仲がいいんです。よく電話をくれて、今度実家に遊びに来いと言ってくれます」と懸命に訴えます。
これは、親に怒りを抱えた子供の“あるある”です。不満は山ほどあるのに、親が怖いのか、気を遣うのか、一生懸命かばって、思いを伝えようとしないのです。