私は男性に、次の真実を伝えました――。
相手が運んできた怒りは、相手に伝えないと始まらない。
心は、人に理解してもらった時に、初めて癒やされる。
一般に、多くの人がやっている怒りへの対処法は、次の5つです――我慢する、言い返す、はぐらかす、逃げる、忘れる。
しかし、もう1つ試せることがあります。
自分の気持ちを相手に伝えること――私は怒りを感じている。そのことをわかってもらいたい、と伝えることです。これが“怒りを返す”という言葉の意味です。
「そんなこと、絶対無理」「話してわかる相手じゃない」と即座に却下したくなる人も、いるでしょう。「そんなことを言ったら、どうなるか」と緊張して固まってしまう人もいるかもしれません。もちろん承知しています。
でも、深呼吸して考えてみてください。怒りがあるのに「話せない」ということは、それだけ伝えていない思いがあるということです。自然に話せる相手なら、そんなにストレスは溜まりません。長く怒りを感じているということは、それだけ無理しているということなのです。
では、想像してみてください。もし相手に思いを伝えることができたら――?
「私はこう感じている。この思いがわかりますか?」
「あの時、私はこう思っていた。あなたは覚えていますか?」
もし相手が、「そうだったのですね、よくわかりました(ごめんなさい)」と言ってくれたとしたら?
思いが伝わった――その時に、ようやく過去の怒りも、悲しみも、寂しさも、流れ始めるはずです。
思いは、伝えることが、最も自然なのです。怒りも、例外ではありません。
なのに、言えない――なぜ?どうすれば、話せるようになるのか?そのあたりの謎解きを、ここから進めていきます。
まずは、こう覚えておいてください。
相手が運んできた怒り――怒るきっかけを他人が作った場合は“返す”ことが基本。腹が立ったら、理解を求める。思いを伝える―。
男性は、眉間のシワをいっそう深くして、「考えてみます」と憮然とした表情で帰って行きました。
しばらく経って、連絡が来ました。なんと、父親と話をしたというのです。
「実家に帰った時、父の姿を観察してみました。気づいたのは、口ぶりがすごく横柄なことです。あれ取ってこいとか、これをしろとか、当然のように命令してくるのです。母親は完全に言いなりです」
男性は、あえて口数を減らしてみたといいます。その素っ気ない態度に、父親は最初は怪訝そうにしていましたが、次第に不機嫌になり、最後は業を煮やして、こう怒鳴りました。
「なんだ、その態度は!」
男性は思わず言い返しました――「それは、こっちのセリフだ!何十年も好き勝手やりやがって!」