覚悟していた“下働き”も
程度の問題

 肝心なSEとしての仕事では、完成したシステムが正確に作動するかの検査が割り振られた。実際に始めてみると、そこには厳格なマニュアルがあって、その通りにチェックしていくだけであり、誰でもできるような仕事でしかなかった。

「先のアクセスの権限付与も同じで、やたらと時間がかかり、1日の勤務時間の半分近くを費やすことも度々ありました。そんなとき『自分はこんな仕事をするために入社したのか』と疑問に思い始めました」

 学んだSEとしての知識や技術も、実践していかなければ身に付かない。まだ新入社員であるし、いわゆる“下働き”のような仕事も覚悟はしていた。

 しかし、それも程度の問題だ。成長を実感できる負荷の高い仕事を与えてもらえず、高橋さんは自分のキャリア形成に不安を募らせていくようになった。

 また、クライアントとの接点をほとんど持てず、期待していた仕事内容と大きく食い違っていたことも、高橋さんに大きな失望をもたらした。

「クライアントとのコミュニケーションを密にして、潜在的な課題を引き出したいと思っていました。それなのに、クライアントを交えた会議に出席できるのは、入社10年目以降の役職者に限られます。キャリア形成を考えると、そこまでは待てず、焦燥感ばかりが高まっていきました」

1000人以上の企業でも
1年目の離職率は7.9%

 実は“第二、第三の高橋さん”が少なくないことを示した、信頼のおけるデータが存在する。

 2022年10月に厚生労働省が発表した「新規学卒就職者の離職状況(対象:2019年3月卒業者)」によると、大卒の新規就職者の就職後1年目での離職率は、11.8%になっている。

 この調査でも中小企業のほうが、早期の離職率が高い傾向にあるのは確かだ。しかし、従業員1000人以上の大企業においても、1年目での離職率は7.9%に達しているのだ。

 なぜ、せっかく入社した会社を、それほどまでに急いで辞めてしまうのだろう。

 経営・組織コンサルティングや従業員研修を行っている識学が今年4月に発表した、「新卒入社3年未満の若手社員の“働き方に関する調査”」で、興味深い結果が示された。

 辞めたい・転職したい理由のトップ5の中に、「成長や昇進の見込みがないから」が27.3%で3位に、「成長につながる仕事や責任ある仕事を任せてもらえないから」が26.1%で4位に食い込んでいるのだ(図1参照)。