反スパイ法改正の
8つのポイント

 改正反スパイ法では、その目的において注目すべき文言が追加された。

「反スパイ工作は、共産党中央の集中統一指導を堅持し、総体的国家安全観を堅持し、~中略~国家の安全のための人民防衛線を構築しなければならない(2条)」とし、「総体的国家安全観を堅持」することをその目的に掲げたのだ。

 総体的国家安全観とは、2014年4月15日、国家安全委員会が設立された際に習近平が提唱した国家安全保障の概念で、政治、国土、軍事、経済、文化、社会、科学技術、情報、生態系、資源、核などを掲げ、中でも「政治の安全(=体制の安定)」が最重要であることが示唆されている。

 習近平は、旧共産圏諸国において政権が市民の抗議活動によって崩壊した「カラー革命」を例に、西側諸国の価値観に強い警戒感を示しており、そういった背景において、今回の法改正でも、中国の総体的国家安全観の堅持(体制の安定)に向けた決意が見える。

 以下、改正反スパイ法について、注意すべき8つのポイントを記載していく(文量の関係上、全て記載はできない旨を断っておく)。

1.定義の拡大(4条1項)
 まず、現行法にある“国家機密”に加え、「そのほかの国家安全と利益に関係する文書、データ、資料、物品」を対象に含むと定義し、さらに「重要な情報インフラの脆弱(ぜいじゃく)性に関する情報」もスパイ行為の対象であると規定している。例えば、中国において、アメリカの情勢に関する情報を収集した際、その行為も第三国に関するものと定義される可能性があるほか、韓国在中大使館は「地図や写真などで安全保障に関する資料をネット検索したり、デバイスに保存するだけでも同法違反に問われる可能性がある」としている。
 また、取り締まりの対象行為について、「国家の安全に危害を及ぼす行為」などで、当局がみなす全ての行為とし、自らの行為か他人の行為か、またはその行為の支持・支援などであるか、中国に関するものか第三国に関するものかを問わない。

2.キャッチオール文言による恣意的運用の拡大可能性(4条1項)
「その他のスパイ活動」という広範な解釈や恣意的運用を可能にする文言が現行法から引き続き残されている。

3.反スパイ工作(中国による“対スパイ”活動)への協力義務化(8条)
 反スパイ工作への支援・協力義務、秘密保持の義務化を示している。さらに、同義務には外国にいる中国国籍者や外国企業の中国現地法人も含まれると推察されるため、例えば日本にいる中国人留学生やビジネスマン、日本企業の中国現地法人もその対象となる可能性がある。

4.密告の奨励(9条)
 密告に対する表彰、報酬が奨励されている。これにより、日本の中国現地法人の中国人従業員から当局に積極的な通報が行われる可能性も。
※通報も義務化されている(16条)

5.当局への強力な調査権限の付与(24条~44条)
 スパイ摘発に関し、以下のような強力な調査権限などの付与。(24条~44条)
 調査権限例:取り調べ、差し押さえ、財産情報紹介、資産凍結、施設などの徴用、封印・凍結
 例えば、誰かが密告すれば、濡れ衣であっても、封印、凍結などがなされてしまうことになりかねない。よって、理論上は日本企業内に密告者を送り込みまたは買収し、密告させる“攻撃”も可能である。

6.国家機密・情報の“事後”認定(38条)
 反スパイ法が適用される国家機密または情報に該当するかについては当局が被疑者を拘束した後に認定することがあり得る。

7.事業・サービスなどの停止命令(54条4項)
 国家安全機関は、関連単位・人員の法律違反の状況および結果に基づき、関連事業の停止、関連サービスの提供または生産・営業の停止、関連ライセンスの取り消しまたは登録の取り消しを命じることができる。
 よって、恣意(しい)的な運用により反スパイ法を適用された企業は、上記の命令を受ける可能性がある。

8.スパイ組織から得た利益の没収(64条)
 スパイ行為によってスパイ組織から得た利益は押収・没収すると規定されており、「スパイ組織から得た利益」の解釈次第で、外国企業・人の知財、財産等が侵害される恐れがある。
(本ポイントは、同法原文、CISTEC、企業法務ナビを参考に筆者が加筆修正)

 結論として、反スパイ法の危険性は以下の5つといえるだろう。

1.法自体が漠然としており、予見可能性がない
2.スパイ行為の定義は拡大され、恣意的運用の余地も拡大(さらに、キャッチオール文言が残存している)
3.法的根拠を持った当局による摘発行為の拡大
4.密告の奨励により、企業内に懸念すべき対象者が潜む可能性
5.反スパイ法のターゲットは人に加え、企業に拡大する可能性

 改正反スパイ法では、スパイ行為が疑われる人物・組織が所有・使用する電子機器やプログラム、設備などの調査権限も規定している。だが、スパイ行為の定義自体が非常に幅広く、例えば中国国営に近しい中国企業との取引で発生したデータさえ抵触する恐れがあるし、疑いがあれば企業施設内に当局が入り込み、調査と称してあらゆる機器を差し押さえ、当該機器内の機密情報は筒抜けとなるだろう。

 つまり危険な法律であることに変わりはない。