組織の変革は社員が
その気にならないと達成できない

島村会長Photo by Teppei Hori

 以上が事業についてです。前述の通り、長期的に事業に取り組むこと、それを社内に示すことで、社員に心理的安全性を付与できます。また、挑戦する雰囲気も醸成できます。

 変化の激しい状況に自律的に継続して対応し変革をしていくための「組織風土の定着」は、だいぶ意識して取り組みました。

 なぜなら、企業というのは戦略だけが先行するのではなく、「組織あってこそ」だからです。戦略組織論がカギになります。「One Team」でチャレンジしていくときの原動力は人材です。このことを全社員に浸透させていきました。

「コングルーエンス・モデル」という経営戦略と組織行動学を統合したモデルがあります。ビジネスは、トップが方向性を示し、全社的な戦略を作る。それに基づいて、KSF(重要成功要因)や人事制度、昇格ルールなどの公式な取り決めを定め、人財配置をし、組織カルチャーとして具体的な仕事の進め方が定まるという流れです。

 とりわけ、社員が敏感に変化を感じ、自立的に変化に対応していくための「組織カルチャー」に注目しました。

 KSFと組織カルチャー、人財、公式の取り決め、これらのバランスを取れて初めて、組織内に変化が起こってくると思います。AGCでは、こうした「人とカルチャーの変革」ができたのではないかと自負しています。組織の変革は、社員がその気にならないと達成できないものです。

 すべてがトップダウンでも、すべてがボトムアップでもうまくいきません。議論を重ねる中で、どういうスタイルがいいのか、対等な立場で議論を闘わす、そういうところも意識しました。

 経営層は、2015年から3年間、世界中の従業員を訪問しました。私は内外含めて年間50カ所を訪問し、いろいろなレイヤーの人たちと、face to faceのタウンホールミーティングを、年間150回行いました。最初のうちは、経営層の話すことをただ静聴しているだけだった従業員が、3年目には対話も増えるなど、反応も変わったように思います。

 2019年のエンゲージメント調査では、4万人を超える従業員の88%から回答があり、「個人の尊重」や「成長の機会」といった項目の点数が大幅に上がっていたのが、うれしい結果でした。従業員を活かすためには、自らが愚直に現場に出向き、face to faceで議論を闘わせる、対話をする、そういうことが実績につながっていくということを体感しました。

 変化のただ中では、こうした組織のカルチャーとともに、それを牽引あるいはフォローする、リーダーの役割が決定的に重要です。最後は、リーダーシップと理想のリーダー像についてふれたいと思います。