ジョイセフと自民党の
「浅からぬ関係」とは?
例えば、昨春には衆議院第一議員会館内でジェンダー平等やSRHRに関する国際セミナーを開催し、鈴木貴子外務副大臣(当時)や松川るい参議院議員(当時の自民党国際局次長・女性局次長)などが参加した(自民党公式サイトより)。
多方面に顔が利くジョイセフは、実は自民党と「浅からぬ関係」にある。
ジョイセフは「女性の命と健康を守る」ことを目的とし、1968年に外務省・厚生省認可の公益財団法人として創設された。そして何を隠そう、初代会長は岸信介元首相、2代目会長は福田赳夫元首相だった(JOICEF『引き継がれるパイオニアの「志」』)。
ジョイセフ設立のきっかけとなった、日本の母子保健を含む保健・医療・社会保障政策は、戦後の保守政権が取り組んだ政策と一致する。国民が一人残らず健康保険を受けられるようにする「国民皆保険」の実現に取り組んだのも岸内閣だった(自由民主党「岸信介総裁時代」)。
このように、設立当初のジョイセフは自民党と近い関係にあり、理念を共有していた。
だが、その後の自民党は政策志向を保守からリベラルへと柔軟に変えながら、長期政権を維持。ジョイセフのような市民団体とは「離れたり接近したり」を繰り返してきた。そして今、双方の利害が一致し、再び接近を図っているというわけだ。
興味深いのは、LGBTQの権利保障に反対する旧統一教会の友好団体「国際勝共連合」と、推進のジョイセフという、思想信条的には対極にある両団体の設立に岸元首相が深く関わっていたことだ(第314回・p5)。
それを「保守の二枚舌」だと批判するのは簡単だ。だがそうではなく、自民党の一筋縄ではいかないしたたかさ・恐ろしさ・懐の深さを示していると考えると、自民党が力を持ち続けている所以(ゆえん)を計り知ることができるだろう。
自民党と市民団体が近づくと
左派野党の存在意義はさらに薄れる
まとめると、現在の自民党は市民団体などの組織を拒絶せず、接触を受け入れている。その背景には、もちろん「マイノリティーの権利保障」を国際的な水準に近づけるという正当な理由もあるのだろう。
だが、その意図を深読みすると、自民党は各組織・団体との交流に応じることで、左派野党の役割・存在意義を奪い、壊滅させようとしているようにもみえる。
自民党が市民団体などに歩み寄り、その提言を受け入れた政策を実行すると、本来そうした役割を担うはずの左派野党の存在感はさらに薄れる。そして、市民団体などもわざわざ野党と手を組む必要性は乏しくなる。
この状況を自民党が意図的に作り出しているのだとすれば、「左派野党の退潮が進む中で、労組・市民団体等が勢いを増している」という構図にも合点がいく。
「マイノリティーの権利保障」というセンシティブな議論すら、「自民一強」体制の強化につなげてしまう。それも、自民党という“最強”のキャッチ・オール・パーティーのなせる業だといえる。