見た目ですぐわかる口内の変化
「禁煙支援」に活用できる?

 さて、このように「わかりやすい変化」が口の中にあるのならば、たばこをやめたいと願う人の「禁煙支援」にも応用できるのではないかと思う人もいるだろう。

 例えば、歯科クリニックに歯周病の治療で通院しながら、歯科医師から禁煙のサポートを受ける。そして、歯周病が治癒されていくのに伴って、歯肉の色も徐々に健康的な色へと変化していくので、禁煙する本人にも「手応え」があって挫折しにくいのではないか。

 その考えは正しい。愛知学院大学歯学部・顎顔面外科講座の元教授で、歯科領域の10学会が参加している「歯学系学会合同脱タバコ社会実現委員会」の委員長も務める長尾徹氏は、このように述べる。

「私たちは学会合同で歯科医師による禁煙介入研究を実施しました。それと並行して研究に参加している歯科医療機関にかかっている患者さんの中で、喫煙者の人に、歯科医院で禁煙支援することをどう思いますかとアンケート調査したら、60%の人は支持しますと回答をしており、しかもその中で1カ月以内に禁煙したいと思う人は89%にものぼったという結果が出ました。実際、この禁煙介入研究では、歯科医師による禁煙継続率は32.8%ということで、専門の禁煙外来での継続率とほとんど変わらない結果が出ています」

 そこで、歯学系学会合同脱タバコ社会実現委員会はこのデータをもって厚労省に対して、歯科医師による禁煙支援を保険適用にしてくれるように働きかけているという。

 現在、歯科医師が禁煙支援をしても保険点数がつかないので、どうしても禁煙支援には積極的ではない歯科医も少なくない。喫煙によって歯周病が発症・進行していても、「やめた方がいいですよ」くらいのアドバイスしかしないのだ。保険適用にすれば、このような状況が改善されて、禁煙が成功する人も増えるはずだ。

 だが、この求めに厚労省は首を縦に振っていない。

「海外では歯科医療でも禁煙支援をするのは当たり前のような国もありますが、日本では喫煙者というのはニコチン依存症という全身病だという捉え方をしていて、医科の病気という位置づけです。歯科医が禁煙支援を行おうとしても保険適応の禁煙補助薬が処方できません。医療行為とみなされているわけです」(長尾氏)

「口の中のプロ」という立場にも関わらず、歯科医は喫煙問題にそこまで関わらなくて良いというワケだ。

 しかし、そんな日本政府のスタンスと真逆の「戦略」を取っているのが、たばこ会社である。