「最後のキスはたばこのflavorがした」
本当にたばこ臭?
愛知学院大学短期大学部・歯学衛生学科の稲垣幸司教授はこのように語る。
「たばこの害というと、肺がんなどの呼吸器系の疾患の印象を抱く方が多いでしょうが、実はたばこの煙に最初に直接さらされる口の中だからこそ、深刻な健康被害を引き起こすことがわかっています。その代表が、歯周病です」
ご存じのように、歯周病とは細菌の感染によって引き起こされる慢性の炎症性疾患で、歯の周りの歯ぐき(歯肉)や、歯を支える骨(歯槽骨)などが溶けてしまう病気だ。この過程で歯ぐきから膿も出ることから、口臭がかなりきつくなることがわかっている。
つまり、宇多田ヒカルさんの名曲「First Love」に「最後のキスはたばこのflavorがした」なんて歌詞もあるが、実は多くの人が「たばこ臭い息」だと思っているものの正体は「歯周病による口臭」である可能性もあるのだ。
そこで次に気になるのは、なぜたばこが歯周病を引き起こすのかということだろう。稲垣教授によれば、「病原菌の攻撃に対抗する力がなくなる」ことが大きいという。
「ニコチンは粘膜からも吸収され、元来、血管収縮作用があり、歯肉の細胞に取り込まれます。なので血流が悪くなって、細胞が正常に機能できなくなってしまいます。その逆に禁煙をすると、血液の流れが回復し、細胞の病原菌に対抗する力が回復するので、歯周病の予防・治癒効果が上がります」(稲垣教授)
この「歯肉の血流悪化」は目に見えてわかるのが特徴だ。たばこの健康被害の代表である肺がんは、検査を受けなければ自分で気づくことが難しいが、「口の中のたばこ健康被害」は口を開けるだけで一目瞭然なのだ。
実際、稲垣教授も作成に関わった日本歯周病学会の禁煙支援の資料には、喫煙者の歯肉の写真が掲載されているが、健康な非喫煙者の歯肉に比べて、明らかにどす黒く着色(メラニン色素沈着)している。