フィリップモリスが歯科医と協力
紙から加熱式へ移行を推奨

 2022年6月、フィリップモリスが「加熱式たばこは喫煙者の口腔衛生の改善に寄与できるか」という研究レポートを発表した。

 この中でフィリップモリスは「喫煙は口腔衛生環境を低下させる最大のリスクファクター」であり、「口腔衛生の観点からみても、喫煙者にとって『禁煙』が望ましいことは明らか」と断言している。一方で、禁煙できない人のために、加熱式たばこへ切り替えてリスクを低減できるのかという科学的な検証が必要だと述べて、「歯科医」と協力していくと宣言した。

<フィリップ モリス ジャパン(以下、PMJ)では現在、歯科医師の方々に向けて、口腔内での検証データをはじめとする加熱式たばこの最新科学データの情報提供を行なっています。その中で、すでに歯科医師の約半数以上でたばこ・ハームリダクションが理解されていること、そして、加熱式たばこに対して「口腔衛生の改善」という視点での関心が高いことがわかりました>

「ハームリダクション」(害の低減)とは、健康被害をもたらす行動習慣がすぐにやめられない場合、それよりも危険性の少ないものへと移行することで、健康被害を小さくしていくという考え方のことだ。加熱式たばこはまさしくこの「ハームリダクション」にあたる、とフィリップモリス側は主張して、紙巻きたばこからの「移行」をすすめている。

 ただ、医療従事者の中には、たばこ会社の主張に懐疑的な人も多い。例えば、日本歯周病学会は、このレポート内で紹介されている論文を「多くの問題点を有します」と指摘。「我々はたばこ関連企業からの加熱式タバコに関する誤った情報は、看過できないと考えます」という見解を示している。

「確かに加熱式たばこのみのエビデンスというのがまだそろっていませんが、加熱式たばこにも紙巻きたばこ同様にニコチンが入っていますので、健康被害もあると考えるべきです。有害物質を90%カットしているといいますが、それはかつて紙巻きたばこが“マルボロライト”という感じで軽さを訴求していた戦略と同じです。あれは、単に持つところに穴が空いていて軽く感じるだけで、有害物質は何も変わりませんでした。しかも、喫煙者は“軽くて健康的”と錯覚して、かえってたくさん吸ってしまう。今回の加熱式たばこを用いたハームリダクションも同じことだと思います。

 喫煙による煙には4000種類以上の化学物質が含まれ、有害物質約250種類、その中には少なくとも約70種類の発がん性物質や多数のフリーラジカルなどがあります。どの物質が90%カットであるのかは、公開されていません。仮に、すべて90%カットだとしても、安全で安心できるでしょうか」(稲垣教授)

 だが、一方でフィリップモリスのレポートにもあったように、たばこ会社のハームリダクション戦略に賛同をする歯科医もそれなりにいるのも事実だ。長尾氏はこれこそが、歯科医師で禁煙支援を保険収載にしなくてはいけない理由のひとつだという。

「実は歯科医の中では、喫煙の問題はそれほど関心が高くありません。なぜかというと、先ほども申し上げたように禁煙支援はあくまで“ボランティア”だからです。だから自ずと、加熱式たばこと口腔環境の関係などの基礎研究もそこまで進んでいない。そこに、たばこ会社は目をつけてスポンサーになっているという状況です。

 加熱式たばこの健康への影響に関する基礎研究が多いのは、日本、スイス、イタリアですが、その中の多くは、加熱式たばこは健康にいいという可能性を示唆するような研究結果です。しかし、論文をよく読むとそれらのほとんどはたばこ企業から資金援助を受けているという実態があります」(長尾氏)

 たばこなど健康被害が指摘されるような商品は、いかにして科学的に害が少ないという「エビデンス」をつくるのかが、生き残りの鍵となる。「肺がん」などは医学的にも認められているのでこれを覆すことができない。となると、残された道は「口の中」ということなのか。

 いずれにせよ、たばこ会社側もこれほど「口の中」に熱い視線を注いでいるのだ。厚労省としても、歯科医による禁煙支援は効果もあるのだから、保険収載を認めるべきではないか。

(ノンフィクションライター 窪田順生)

【訂正】記事初出時より以下の通り訂正します。
20段落目:「愛知学院大学歯学部・顎顔面外科講座の教授」→「愛知学院大学歯学部・顎顔面外科講座の元教授」
25段落目、35段落目、37段落目:長尾教授→長尾氏
(2023年7月13日09:45 ダイヤモンド編集部)