はやりに埋没しない、
同作品が備える魅力とは

 まず、物語の舞台は中世ファンタジー風味である。剣と魔法と石畳の街とモンスターを要素に持つような、もはやド定番となっている世界観で、異世界転生ものでも目にすることが最近増えた舞台設定である。
 
『葬送のフリーレン』は舞台設定こそはやりだが、他の中世ファンタジーの作品群と一線を画しているポイントが一つある。それは「魔王を倒すのが目的」でなく、「魔王を倒したあとの物語」というものである。主人公のフリーレンは魔王を討ち果たした勇者パーティー4人のうちの1人で、魔法使いである。
 
 また、勇者は人間だが、フリーレンは長命の種族であるエルフで、少女のような見た目で1000年以上生きるという。フリーレンが50年ぶりに再会した勇者は老いていて、やがて死を迎えることになる。

 それに際してフリーレンは、勇者の生前にその人生をもっと深く知ろうとしなかったことを後悔し、人間を知るための旅に出る……というのが、金曜ロードショー公式記事に載っていた範囲内のあらすじである。おそらくアニメ初回も『~旅立ちの章~』と題されているので、このあらすじで語られていた部分を2時間かけてやるつもりであると思われる。

 このあらすじを読んで「地味そう」と感想を抱いた人がいたとしたら、それはものすごく正しい。『葬送のフリーレン』は全編にわたって地味である。とはいえ“地味”にはネガティブなニュアンスがあるので、“静か”などと言い換えた方が好ましいかもしれない。作品ファンとしては、その静かさにもっとポジティブな響きを持たせるべく“静謐(せいひつ)”と言い表したいところである。
 
 派手なドンパチもたまにあるが、話がそちらに偏重しすぎることはない。あくまでフリーレンが人と自分を知っていく旅である。原作未履修の人の「はたしてそんな“静か”な作品が面白いのか(いや、面白いとは思いにくい)」という疑問は当然である。しかし、それだけ“静か”な作品がマンガ大賞を受賞するほど評価されているということは、その静かさに尋常ならざる面白さが詰められている証しである……と見ることができよう。
 
 実際、作品全体に漂うトーンは静かだが、淡々と丁寧に描写される人物の心情や進行していく物語は、読む人の心をジワーンと、しかし激しく刺激するようなパワーがある。本記事冒頭で「紳士淑女におすすめしたい」と書いたが、そのゆえんがこれである。静かに、知性や感性に訴えかけてハートを揺さぶってくる作品であり、品性がうるわしき人ほど深く刺さるのではないか――と推測されるのである。
 
 その雰囲気をいちいち言葉で説明しようとすると、十中八九伝わりきらずやぼになるので、当記事では試みない。気になる人には原作に当たってもらうとして、その雰囲気がアニメの方でどのように扱われるかを注目したい。