『推しの子』に次ぐ成功例となるか
初回2時間を金ローでやるギャンブル

 今やすっかり人気アニメとなった『推しの子』が、今年4月、アニメ第1回のみを拡大版として90分の長尺を放送し、成功を収めたことは記憶に新しい。あれがもし90分でなく、従来タイプの30分(CM含む)であったなら、きっと今のような人気は獲得しなかったであろうと筆者は見ている。
 
 実は、筆者は『推しの子』の原作マンガの1話目を読み、「自分には合わない話」として2話目以降を読まず、その後長いことノータッチでいた。しかし、『推しの子』の面白さは1話目で提示されたきてれつな舞台設定に振り回されることなく、2話目以降でどんどん加速していく。『推しの子』アニメ第1回放送90分は原作2話目以降を含んだ内容であり、作品の魅力をしっかり伝えるための、英断の90分であったように思う。
 
『葬送のフリーレン』の初回放送が2時間という決定にも、それと同種のもくろみが働いているのかもしれない。『葬送のフリーレン』原作が漂わせる、静かで心地よくエモい雰囲気を視聴者にしっかり伝えるために、2時間という枠を確保したのかもしれない。
 
 金曜ロードショーで、アニメで、安定した高視聴率をたたき出している作品といえば、やはりその筆頭はスタジオジブリ作品であろう。名探偵コナンやルパン3世シリーズなど国民的で元気なアクションのアニメ映画も放送されているが、基本的な放送時間である金曜夜9時~という時間帯においては、ジブリ作品のような「ゆったり、しっかり伝わる物語」の方が好まれるのかもしれない。その意味で『葬送のフリーレン』は相性がよさそうである。
 
 ただし、いつも金曜ロードショーにチャンネルを合わせる人は当然映画と称するにふさわしいクオリティーの作品を求めて見にきている。
 
 また、アニメ映画とテレビアニメでは、様式美となっているテンションや間がそれぞれ違うので、「テレビアニメ」というだけで「アニメ映画」ファンから敬遠されるリスクもある。もっと具体的なケースでいうなら、『葬送のフリーレン』初回放送は、金曜ロードショーで放送されるからこそ、大多数の原作未読の視聴者から「ジブリや新海誠と比べてどうなんだ?」という、極めて高いハードルのもとジャッジされることになるだろう。
 
『葬送のフリーレン』を応援する制作者とファンにとって、今回の放送はギャンブルのような殴り込みである。不利に押されて大コケするか、不利をひっくり返してファン層をガバッと拡大するかの天王山である。
 
 それはそれとして、一般視聴者としては自分に合った楽しいエンターテインメントだけを享受すればよろしい。当記事を読んで『葬送のフリーレン』に少しでも興味を持った人は、ぜひ原作なり、9月の金曜ロードショーなりをチェックしていただければ幸いである。