効率性の追求が創意工夫の余地を奪う

 マニュアル化により個人の特性によるムラを防ぐことができる。仕事の流れがマニュアル化され、細かく指示が与えられ、具体的なやり方についても懇切丁寧な決まりごとがあれば、迷うことなく仕事に取り組めるし、失敗への不安もなくなるので、安心して仕事に向かえる。

 そのような意味においてマニュアルは有効だし、多くの職場でマニュアル化が進んでいるわけだが、不安の解消だけではモチベーションは上がらない。

 マニュアルで定められた通りに動けばよい、逆に言えば、マニュアルにないような勝手な動きを取ってはいけないということになると、個人の創意工夫の余地がなく、働く側のモチベーションは上がらない。これがマニュアル化に伴う一つ目のリスクである。

 モチベーションには、失敗回避動機というものがある。失敗を恐れ、極力失敗しないようにしようとする動機だ。失敗回避動機の面からすれば、マニュアル化は失敗への不安を軽減し、モチベーションを高めることになる。

 ただし、モチベーションには別の要因もある。なかでも重要なのは自律欲求だ。心理学者マレーによれば、自律欲求とは、強制や束縛に抵抗し、権威から離れて自由に行動しようとする欲求のことである。

 失敗への不安の解消だけでは、モチベーション全体の高まりは期待できないが、自律欲求が満たされれば、かなりモチベーションが高まることが期待できる。その意味で言えば、マニュアル通りに動けばよいというのではモチベーションは上がらない。

 もともと能力的に自信のない人や仕事へのモチベーションの低い人は、マニュアル通りに動くのは安心だし楽でいいかもしれない。でも、能力的に自信のある人や仕事に対するモチベーションの高い人の場合は、創意工夫の余地が乏しいとモチベーションを低下させてしまう。