年末年始に証券取引所で
相次いだ上場規定の改正
昨年末から今年初めにかけて、国内各証券取引所の上場規定が改正され日本の増資環境が変わった。1つは第三者割当増資に対する規制導入、もう1つはライツイシューの解禁である。
(後者に関しては、早稲田大学MBAで客員教授を務める大崎貞和氏(野村総合研究所)から課外授業でお話を聞く機会を得た。私はファイナンス研究科に所属しているが、こうやって他の研究科の教授陣や生徒とも交流の機会があると、大学院に対する投資リターンはますます高まる)
第三者割当増資に関しては、増資前の発行済株数に対しての新株発行割合が25%以上の希釈化(実務での希薄化と同義)を引き起こすものに関しては、株主への説明を徹底すること、あるいは、株主総会での承認を取ることという規制が導入された。その他にも発行価格の算定根拠を示すことなど、従前から問題点として指摘されてきたことに対しての手当てがなされた。
また、2009年は日本企業が相次いで大規模な公募増資を発表した。グラフでも確認できるように、その規模は突出している。大航海時代ならぬ大公募増資時代と、ある投資家が表現していたほどである。
2009年は11月までの数値 出典:東証統計月報 |
ライツイシューなら、
公募増資や第三者割当増資での
問題点を回避できるのか?
公募増資で必ず登場する投資家からの批判、懸念は、1株当たり利益の希薄化である。これは第三者割当増資でも起こるが、新たな株主が増えることで、今までの既存株主の1株当たり利益が減ってしまう問題である。
しかし、もし新たな投資家に株式を割り当てず、すべて既存株主にのみ、しかも、保有株数に応じて按分で割り当てて資金調達ができれば、「株主当たり」の利益の希薄化は起こらない(1株当たりの利益の希薄化は当然起きるが)。そこで登場したのがライツイシューである。既存株主に新株予約権を割り当て、それを行使してもらうことで増資をするという資金調達手法である。
(ライツイシューの概要や問題点などは大崎氏のコラムをご参照)
資金調達手段が増えることは、企業の財務戦略の柔軟性が増すので、プラスであろう。ただ、ライツイシューに関してはタダで得するという大きな勘違いがあるようなので、今回はその点を強調することと、ライツイシューも結局増資であり、その資金の有効活用を株主が望む点は公募増資とも第三者割当増資とも何ら変わらないという点を指摘しておきたい。
価格のカラクリにご用心:
証券市場でタダで得することはできない
ライツイシューのライツは新株予約権のことを意味するが、企業は既存株主全員に新株予約権を無償で配分する。例えば、1株につき1株が購入可能な新株予約権を1つ渡す(これだと株数が2倍にも増えてしまうので、実際にはライツ1つにつき0.1株購入などになると思うが、整数のほうが理解しやすいため、今回は1:1で考える)。既存株主はもう1株欲しいと思えば予約権を行使し、新株を購入。いらなければ、権利は放棄、または、誰かに売ってもいい。