Making as Thinking──考えるためにつくる、「思索の試作」

目の前にある課題を解決しながら、製品やサービスを「あるべき姿」に向かって洗練させ、研ぎ澄ませていく。「デザイン」を、そんなイメージで捉えている人は多いのではないでしょうか。実は、課題解決のもっと手前で思索を深め、未来の可能性を広げることも、デザインの役割の一つです。ビジネスが存在する前提そのものを問い直し、未来の可能性を豊かに広げていくために──。本連載の最終回では、「考えた結果をつくる」だけでなく、「考えるためにつくる」ことの大切さについて考えます。

【お知らせ】12/12(火)、12/15(金)、12/19(火)の3日間にわたり、吉泉聡さんのワークショップ「MAKING as THINKING」が開催されます!(詳細は こちら から)

「可能性の喚起」というデザインの新たな役割

 私が代表を務めるTAKT PROJECTでは、クライアントから依頼されたデザインワークと並行して、自主研究としてのデザインプロジェクトにも常に取り組んでいます。まだ世の中で言語化されていないことを形にし、体験として他者と共有するためのデザインです。

 その一つに『glow ⇄ grow』というインスタレーションのシリーズがあります。2019年に「ミラノデザインウィーク」で初めて発表して以来、形を変えながら展示を重ねてきました。光で固まる性質を持つ液状のプラスチック(光硬化性樹脂)を少しずつ垂らし、明滅をプログラムしたLEDの光を当てていく。すると、自然の産物である「つらら」や「鍾乳石」そっくりに、プラスチックが「育っていく」のです。展示を見てくださった方からは「まるで生きているみたい」とか、「神聖さを感じた」という感想を多く頂きました。

Making as Thinking──考えるためにつくる、「思索の試作」Photo : Takumi Ota

 環境保全が世界共通の課題になる中、プラスチックは環境負荷の高い人工物の代名詞のように扱われています。確かに、プラスチックはそのままでは土に返りません。しかし「使い捨て」や「量産」という役割を与えてきたのは他ならぬ人間であり、素材そのものの善悪の判断以前に、人間の素材に対する態度を議論するべきです。人工的な素材にも潜む「自然」と関わり合う性質を垣間見せることは、人工と自然、そして人間との新たな関係を探る端緒になり得るのではないかと思っています。

 プロダクトでもなく、アートでもない、このような造形を「デザイン」と呼ぶことに違和感を持つ人もいるかもしれません。しかし、実はこのように「可能性を喚起(エヴォーク)する」ことこそが、これからのデザインが担うべき大きな役割ではないか──と、私は思っているのです。

Making as Thinking──考えるためにつくる、「思索の試作」Photo : Takumi Ota