企業活動の「サポート」から、価値観を「喚起する」デザインへ

 今、デザインは、企業活動のあらゆる場面で活用されています。提供価値そのものを形にする「プロダクトデザイン」や「サービスデザイン」、それらの魅力を最大限に伝える「グラフィックデザイン」や「コミュニケーションデザイン」、店舗やウェブサイト、アプリなどのタッチポイントで体験を豊かにする「空間デザイン」や「UI/UXデザイン」……。

 それぞれ専門性は異なりますが、これら多様なデザインに共通するのは「企業活動をサポートする」という役割を担っていることです。比喩的に言えば、企業活動が生み出す「果実」を、おいしく、食べやすく、栄養豊富な状態で、顧客(を中心としたステークホルダー)に届けるための活動といえます。

 一方、先ほど例に挙げた『glow ⇄ grow』のような「エヴォークするデザイン」は、直接的に企業活動をサポートしません。しかし、長期的に見ればビジネスや社会の変革につながる考え方を喚起する可能性を内包しています。少なくとも、プラスチックをはじめとする人工的な素材に対する私自身の理解は、この作品への取り組みを通じて確実に深まり、それをクライアントワークにも生かせるようになりました。それは、これまでとは違う果実を育む土壌を考えることであり、耕すような活動といえます。私は、こうした喚起をもたらす造形を「Evoking Object(エヴォーキングオブジェクト)」と呼んでいます。

 「サポートするデザイン」がビジネスのさまざまなシーンで課題解決を担っているのは確かです。しかし、既存の評価軸に沿った果実だけに注目していると、狭い世界の微差にこだわる競争に陥りかねず、かえって創造性から遠ざかることもあります。

Making as Thinking──考えるためにつくる、「思索の試作」©TAKT PROJECT

 企業が直面する課題の中心が「何をどれだけ提供するか」から、「何のために、どこへ向かうか」へと変化している今こそ、新たな評価軸を生み出す土壌をふかふかに耕すことに、もっと目を向けるべきではないでしょうか。それは、本連載のテーマである「未知へのアプローチ」そのものであり、Evoking Objectをつくりだすこと、そしてそのプロセスは、その具体的な方法なのです。