私が技術顧問として支援するAdobeもその1つです。Adobeが3月に発表した「Adobe Firefly」はAdobe製品に今後搭載される生成AIモデルで、画像生成などの機能がブラウザでも試せるほか、PhotoshopやIllustratorなどのアプリケーションにも段階的に搭載されているところです。Photoshopの例では「空の画像に飛行機を追加したい」というとき、テキストによるプロンプトで指示するだけでいくつかの候補を生成することができます。
Adobeはクリエイターファーストをうたい、クリエイターフレンドリーなアプローチを取っています。Fireflyのエンジンとなる学習モデルでは、著作権や商標が処理されたデータを使って学習が行われます。また、学習に使ってほしくない画像ファイルにメタタグを埋め込めば、その画像ファイルは学習されない仕組みがあります。今後、Fireflyの学習に貢献したデータを作ったクリエイターには、きちんと利益を還元する仕組みも準備が進んでいるところです。
生成AIを開発可能な事業者は一部
持てる者・持たざる者の格差
生成AIではベクトル空間における計算を高速で大量に行うのですが、この計算には、以前『半導体業界大手・NVIDIA「30年の浮沈」に学ぶ、日本企業のあるべき姿』でも紹介したGPUによる汎用計算(GPGPU)が必要となります。
LLMなどの自然言語処理モデルには「スケーリング則」と呼ばれる法則があります。これは言語モデルの性能は、「トレーニングに使用される計算量」×「データセットのサイズ」×「言語モデルのサイズ(パラメーター数)」といった要素で決まるというもので、モデルの性能を良くするには、これらの要素が大量に必要です。このため、汎用(はんよう)的な生成AIは、極めて限られた事業者しか作れません。
一方、特定の用途に特化した生成AIの開発はまだまだ可能です。ただし、「プロンプトエンジニアリング」と呼ばれる入力するテキストを調整する手法ではなく、AIモデルを調整する「ファインチューニング」と呼ばれる手法ではやはりGPGPUが必要で、一部の企業でしか活用できない状況です。もしこの状況が続くようなら、スケーリング則で必要な要素をリソースとして持つ者と持たざる者の格差は、ますます広がっていくかもしれません。
開発できる事業者が限られるということのほかにも、生成AIには課題があります。以下は「生成AIの課題とは何か」をChatGPT自身に書かせたものです。
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