そこで動作や生成の仕組みを論理的に説明できる「説明可能なAI」が求められていますが、これはまだ実現されていません。日本では最近、国立情報学研究所や東京大学などの研究者が集まって、この動作の解明に乗り出したところです。

 次の「創造的な限界」という課題も、AIの学習と出力の仕組みによって生じます。生成AIは画像であれテキストであれ、過去データを学習することで、今現在“ベストプラクティス”といえるコンテンツを作り出すことに長けています。ところが、世の中のイノベーションや発明は、過去にあったものを改善した焼き直しではないことがほとんどです。となると、生成AIで本当に創造的なことができるのか、疑問が生じます。

 私は、生成AI単独では創造的な発想はできないと考えています。画家のパブロ・ピカソは最初、写実的な絵画を描く普通の画家として歩み出し、青を基調とした作品を描いた「青の時代」を経て、キュビズムを創始しました。もしFireflyのような生成AIが青の時代にあったとしても、そこからキュビズムは生まれなかったと思います。またフラットデザインという、スマートフォンアプリのアイコンなどで多用されている平面的でシンプルなデザインも、その概念がない時代に「良いデザインのアイコンを作って」と生成AIに問いかけても、生まれなかったのではないでしょうか。

 ただ、私とは違って「生成AIでもイノベーションや発明は可能」という考えを持つ人もいます。クリエイティブファーム・THE GUILD代表でUI/UXデザイナーの深津貴之氏は、私とAdobeのチーフデジタルオフィサー・西山正一氏との鼎談(ていだん)で、「大量のデータを与えて、“何を良いとするか”を適切に評価する関数を作ることができれば、AIにもイノベーションは可能ではないか」と述べています。

人が創造的作業を成功させる方法は
生成AIの使い方のヒントになる

 生成AIは、すでに正解や方法が分かっていることについては答えを持っています。一方、いくつかの方法があるときにどれかを選択することや、キュビズムのように世の中にまだ存在しないものを作り出すこと、新規性のある組み合わせを見つけることは、今のところまだできません。

 では、生成AIが今はできない判断や、無からの創造(発明)、組み合わせにより新しい価値を生み出すこと(イノベーション)を、人間はどのように行っているのでしょうか。それがAIに創造的作業をさせるためのヒントになります。