デザイン部門が持つ可能性をビジネス価値の創出につなげようとする動きが活発になっている。しかし、事業部門との組織の壁に阻まれ、その試みが頓挫したという企業は多いのではないだろうか。味の素は2023年4月、デザインとマーケティングを融合させた新組織「マーケティングデザインセンター」を発足させた。縦割りの事業部門に横串を通し、新たな価値を創出していくための組織づくりの工夫を、同センター長の岡本達也氏、マーケティングチームを統括する稲垣英資氏、クリエイティブチームを統括する向井育子氏に聞いた。(聞き手/音なぎ省一郎、坂田征彦、構成/フリーライター 小林直美、撮影/まくらあさみ)
クリエイティブな思考を、生活者起点の価値創出に生かす
──マーケティングデザインセンターとはどのような組織でしょうか。
岡本 デザインなどのクリエイティブを担っていた「広告部」と、マーケティングを担っていた「生活者解析・事業創造部」「オウンドメディア」の3部門を統合した組織です。味の素の事業は、二つの事業本部(食品事業本部、アミノサイエンス事業本部)の下に、商品カテゴリーごとの事業部がズラッと並ぶ縦割り構造になっています。これらの事業部に横串を通すのが、R&D、DX、生産技術などの機能別組織で、マーケティングデザインセンターもその一つです。他の横串型組織と大きく違うのは、事業部のサポート業務を担うだけでなく、自ら収益ビジネスも手掛けていく点です。
──センター独自に売り上げも上げていくということでしょうか。
岡本 そうです。主にオウンドメディアを活用したECやD2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)といった新しいチャネルはセンター主導で開拓していきます。スーパーマーケットやコンビニのような既存の販売チャネルでは育てていくのが難しい、ニッチなロングテール型の商品開発に積極的にチャレンジしたいと考えています。
執行役常務 食品事業本部副事業本部長 兼 マーケティングデザインセンター長
──デザインとマーケティングという二つの機能を合体させた狙いは。
岡本 大きな狙いとしては、商品開発と検証のループを、主体的に回したいということがありました。これまでは、両部門とも「事業部からオーダーを受けてサービスを提供する」という仕事のやり方が基本でした。そのような請負型のスタイルでは、どうしても事業部が想定した課題に解を出すことが優先されるので、既存の枠を超えたアイデアが生まれにくかった。
新組織では、生活者のインサイトを探り、商品・サービスを開発し、コミュニケーションし、販売し、得られたデータからさらなるインサイトを発見する──というループをアジャイルに回せるようになります。ここから得られたノウハウやナレッジを事業部に供給していくのもわれわれの大きなミッションです。
もちろん、事業部の商品開発にも積極的に伴走していきます。これまではマーケティングチームが商品開発フローの上流でリサーチを担当し、クリエイティブチームは下流でコミュニケーションを担当する、というように、バラバラに参画することが多かったのですが、これからは最初の段階から一緒に価値創出に関わりたいと思っています。生活者中心という視点とデータ分析の専門スキルを持つ「濃い」専門家集団が社内にいるのですから、もっとうまく活用してアウトプットを高度化したいと思っています。