右脳と左脳を併せ持つ組織でアイデアを実装
──既存のフローを変えることに対する事業部側からの抵抗はありませんか。
岡本 それはないですね。新しいアプローチの必要性は事業部側も認識しています。ただ、事業部の仕事は原価管理や流通管理、商品企画から営業まで非常に幅が広く、日常業務を回し続けるだけで手いっぱいで、新しいことを考えたくても余裕がないというのが実情です。だからこそわれわれが受け身の姿勢を脱却し、主体的にフローを回し、仕組み化していかなければいけないと思っています。
稲垣 狙ったわけではないと思いますが、私たち3人は全員が事業部の経験者です。だから日々のビジネスの中、しっかり売り上げ・利益を確保しないといけない苦しみはよく理解しているつもりです。これも、事業部に伴走していく上で大切なことであり、利点だと考えます。
食品事業本部 マーケティングデザインセンター 副センター長 兼 マーケティング開発部長
向井 私は広告企画やデザインをするクリエイティブ担当として入社しましたが、その後、事業部に異動して商品企画等に17年間携わりました。広告部時代は、事業部から出てくるアイデアを「もっとこうしたら面白くなるのに」と感じていましたが、事業部に移ってみると、面白いだけでは通らないことも痛感しました。
岡本 向井さんが開発した「Toss Sala(トスサラ)」も、最初は社内で酷評されていましたよね。
──どんな商品ですか。
向井 使うと気分がアガる商品を作ろう! という発想から生まれたサラダ用シーズニングです。カラフルで、食感も楽しくて、野菜をトスする(混ぜる)だけで食卓がキラキラして……みたいな商品なんですが、「それって必要?」みたいに言われてしまって(笑)。
食品事業本部 マーケティングデザインセンター 副センター長 兼 コミュニケーションデザイン部長
岡本 デザイナーは常に使う側にとってどうかという目線を持っています。特に向井のように、脳みそにたくさん引き出しがある人は、刺激を受けた瞬間に複数の引き出しが掛け合わされて消費者視点のアイデアが飛び出してくる。ちゃんと因数分解すれば経験に裏打ちされた根拠はあるのですが、アイデアだけだと理解されにくい。良いアイデアを社内でしっかり活用するには、直感で発想して論理で検証する──というプロセスが必要です。
要は、右脳と左脳を融合しないといけない。左脳だけだと新しいものが出てこないし、右脳だけでは根拠に欠ける。味の素は総じて左脳的組織で、右脳的に課題を見いだし、世の中に面白く伝え、巻き込んでいく役割を担うセクションが不足していたように思います。
──マーケティングデザインセンターは、まさに右脳と左脳を併せ持つ組織ですね。
稲垣 そうですね。右脳的なクリエイターと、左脳的なリサーチャーがワイワイガヤガヤと対話して融合していく。縦割りの事業部にも、私たちがセットで入り込むことが大事だと思います。
──クリエイター個人のスキルをビジネス方面に拡張していくというより、専門性の高いメンバーを組織化することで総合力を発揮していくという方向でしょうか。
岡本 基本的にはそうです。味の素には真面目で優等生的な社員が多いし、ゼネラリストが昇進しやすい。センターは遊軍的な立ち位置を生かして、偏ったスキルセットを持つ人も活躍できる仕組みを作りたいし、多様な働き方、多様なアジェンダをセッティングできる先例を示していきたいと思っています。