いまビジネスの世界で話題をさらっている生成AIの登場で、これまで「知」とされてきたものの価値が揺らいでいます。そのため、これからの時代を生き抜いていくためには、単なる知識の暗記や積み上げではない、「AIにできない思考」を実践する必要があります。
そのとき大切なのが、物事について「なぜそうなのか?」を徹底的に考え抜いていく「クリティカル・シンキング」です。
そこで今回は、「マーケティングとはそもそも何か?」を分析することを通じて「クリティカルに考える」ことを実践してみせた新刊『新マーケティング原論』著者・津田久資氏にご登壇いただいた、本書刊行記念セミナー(ダイヤモンド社「The Salon」主催)の模様を、全2回のダイジェストでお届けします。(構成/根本隼)

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「考えたつもり」になっている人が多い

津田久資氏 クリティカル・シンキングとは、「なぜ?」という問いをとことん突きつめていく批判的思考のことです。論理的思考によって、既存のやり方の前提を明らかにする思考だと言ってもいいでしょう。

 ですが、「徹底的に考える」ことがたえず要求されるはずのマーケティング領域においても、クリティカル・シンキングが決定的に欠けているというのが、日本のビジネス界の現状です。

 たとえば、3Cや4Pというマーケティング用語は、誰もが耳にしたことがあるでしょう。実際、たくさんのマーケターがこのフレームワークを使っています。

 しかし、なぜ4Cや5Cではなく、「3C」でいいのでしょうか? 「3C」というフレームワークを使えば正解にたどり着けるという発想の「根拠」はどこにあるのでしょうか?

 こういった本質的な問いを持たず、無批判に既存のツールを使って「考えたつもり」になっているマーケターがすごく多いんです。

 マーケターとは「考える職業」です。「なぜ?」という問いを徹底するクリティカル・シンキングをしないマーケターなど、本来ありえません。こういった危機感から、『新マーケティング原論』を世に出しました。

「自分の頭で考える」ことがおろそかになっている

 日本人は、かつての成功体験に過剰に固執したり、本に書いてあることや既存のマニュアルを無批判に信じすぎたりする傾向があると思います。

 それは、ビジネスの現場にクリティカル・シンキングが浸透しておらず、「なぜそれが正しいといえるのか?」という健全な懐疑が生まれにくいからです。

 でも、過去の成功事例には、経済・社会の状況など様々な前提条件があったはずです。もし、その前提がいま変わっていたら、同じマニュアルを固守しようとしてもうまくいきません。

 個人的には、日本ではこれまで「学ぶ」「覚える」ことばかりが重視されて、「自分の頭で考える」という作業がおろそかにされてきたことが根本的な問題だと思っています。

 「自分で考える」というプロセスが欠けると、「学んだこと=普遍的な正解」だと思い込み、思考の幅が狭くなってしまいます。ですから、より多様で幅広い発想を得るためには、「なぜそうなのか?」という問いを常に持ち続けることが不可欠です。