新日本酒紀行「天宮」蔵から望む会津磐梯山 Photo by Yohko Yamamoto

大きな蔵が始めた小さな仕込み、会津魂を酒に込めて勝負

 福島県会津若松市北西部、郊外の田んぼに囲まれ酒造りをする花春酒造。創業は1718年、初代宮森久右衛門が鶴ヶ城外堀東門の天寧寺口(てんねいじぐち)で始め、天寧寺の宮森さんで「天宮(てんみや)」さんと呼ばれた。1868年戊辰戦争の鶴ヶ城落城で、町の明かりが消えたとき、5代目が「花のような明るさと、春のような和やかさ」を人々の心に取り戻したいと「花春」を発売。その後、県内一の大手蔵になり、2005年に近代設備の新蔵を神指町(こうざしまち)に建てた。

 現杜氏の柏木純子さんは大学で食品学を専攻し、1993年に花春酒造に入社。配属は酒の分析だったが、酒造りに興味が湧いた。異動を希望するものの酒造りの現場は女人禁制で、10年後にようやくかなう。男性蔵人と一緒に30kgの米袋を担ぎ、泊まり仕事もこなす厳しい日々を送る中、技術力が買われて、07年に杜氏に就任。だが花春酒造は、普通酒主体の経営と、東日本大震災で大打撃を受け、経営が悪化。柏木さんは花春酒造を離れ、同市内の鶴乃江酒造の蔵人に。