自分は決して死んだりしない、という意気込みは結構です。一代で会社を作り上げた、あるいは家業を大きく成長させた自信がそう思わせる根拠なのかもしれませんし、あまたの難題やピンチを乗り越えてきた自負もあるでしょう。

 それでも、相続や会社法の決まりは、その点を勘案はしてくれません。全ての経営者、全ての企業に、経営権のリスクが存在していることを、まずは認識していただきたいのです。

家族間の愛情で
事態が複雑化するケースも

 私が相談を受けた企業の中には、父親である「カリスマ経営者」が経営権承継を何も考えていなかったせいで、少なからずご家族が大混乱に陥ってしまったケースがあります。

 遺言を残していないのであれば、経営権の源泉である株式は法定相続となります。つまり、配偶者50%・子ども50%です。子どもが複数いるなら、50%を分け合う形になります。

 ポイントは、過半数(過半数とは全体の半分より多い数)すなわち半数を超えている株主がいないこと。しかし、もっとも過半数に近いのは配偶者だという点です。

 長男と次男が、オーナー社長である父親の会社を支えていて、妻は特に何もしておらず、100%株式を持っていた父親が遺言なしに亡くなったケースを想定してみましょう。

 長男も次男も取締役でしたが、社内や地域の評判では、次男のほうが優秀で人柄も良く、父親の経営理念や信念をよく理解しているという定評があります。一方、長男は高い役員報酬を受けながら横柄で、社業にも通じておらず、むしろ地域では派手な遊び人として有名です。

 そして、創業者の父から会社の株を妻50%、長男と次男がそれぞれ25%ずつ相続することになりました。

 この時点で、妻がこんなことを言い始めたら、どうなるでしょうか。

「お母さんは、《長男》が会社を継いでくれたらいいと思っているの」