次男も周囲も混乱します。しかし、打つ手がありません。

 なぜなら、長男が母親と組んでしまえば50+25=75%の株式を握ることとなり、経営権を確保できてしまうからです。母親を説得し、長男が納得して考えを改めない限り、どうにもなりません。

 妻かつ兄弟の母親がそう考える理由は、もしかしたら、このようなことかもしれません。

「お父さんは、子どもの頃から次男ばかりえこひいきしてきた。次男はお父さんに似て、仕事ばかりして家族を大切にしない。私は長男が気の毒に思った。本当は昔から優しくて、私の言うことをよく聞く長男を応援したい」

 母親としての立場からはそれも一理あると言えなくもありませんが、創業者の遺志とも、周囲の評価からもひどく乖離がある決定が、経済合理性も何も考慮されないまま、強力な株主権によって押し通されてしまうこともあるわけです。

 当然、これでは次男は不満でしょう。しかし、抵抗すれば、最悪の場合は取締役を解任され、会社からそのまま追い出されてしまうかもしれません。それでも次男についていきたい従業員や次男を信頼する取引先は会社を離れてしまうかもしれません。

 同じ家族とはいえ、それぞれが別の人間であり、異なった感情や考え方を持っているのは自然です。しかしそのために、創業者である自分自身の考えや、手塩にかけて成長させてきた事業が危機に瀕し、企業としても家族の関係としても良くない方向に向かってしまいかねないリスクがある、というわけです。

 オーナー経営者は、たとえ現時点では問題が表面化していなかったとしても、元気な間に先手を打っておかなければならないのです。