蝸牛庵跡の現況
“自由”を冠した理髪店は姿を変えて

 さて蝸牛庵跡の現況だが、第一蝸牛庵は明治村で元気に余生を送っている。

 44番地あらため東向島1丁目9番13号周辺は、水路が埋め立てられて道になったりしたほかは例の坂道や路地などの独特の地形は健在。「鳩の街」は鳩の街通り、鳩の街商店街として名前だけは健在だ。

 ただ、旧・甲州屋跡はマンションの工事中だった。完成予定は2023年9月。第二蝸牛庵跡の児童遊園も当然ながら健在。横のゴム工場ことヒノデワシ株式会社は業績好調らしい。

 ついでに言うと、野田が「明治さながらの理髪屋」(『アルバム東京文学散歩』)と書いた自由軒は「JIYU―KEN」という名のモダン理髪店に生まれ変わっていた。野田さんが見たら、狂喜して喜んだであろうことは請け合いだ。

書影『「東京文学散歩」を歩く』(ちくま新書)『「東京文学散歩」を歩く』(ちくま新書)
藤井淑禎 著

 さて本コースの散歩も向島・蝸牛庵跡が終点だ。「その六」コース自体はこのあとも、百花園、玉ノ井、曳舟と歩いていくが、出発が柳橋で「その二」コースに途中合流したように、帰りもここで途中離脱することとしたい。

 帰り道だが、蝸牛庵跡からは、東武伊勢崎線の曳舟駅、東向島駅(旧玉ノ井駅)、京成押上線の京成曳舟駅がいずれも600メートルから800メートルくらいの距離にある。半蔵門線や都営地下鉄浅草線、京浜急行線へも接続しているので便利だ。途中で資料などを確かめたくなったら、京成曳舟駅そばのひきふね図書館が便利。

 あと、最後に一服したい方のために、鳩の街商店街の甲州屋跡寄りにある「こぐま」(東向島1-23-14)という名前の古民家カフェをおすすめしたい。もと古本屋さんだったという落ち着いた雰囲気と、いかにもそれらしい風貌のご主人が迎えてくれるはずである。焼きカレーとか焼きオムライスが得意なようで、スイーツも十分たのしめる。