「影響力」を借りることで、仕事がうまくいく

 なぜ、あのとき、僕の仕事はうまくいったのか?
 そもそもの出発点は、妻・明子の存在です。僕がマリオから保険契約をお預かりすることができたのは、「商品力」のおかげでもなければ(そもそも各社の「保険」にそれほどの商品力格差があるわけではありません)、僕の「営業力」のおかげでもなく、ましてや僕の「人間力」のおかげでもありません。

 ただひとえに、妻のマリオに対する「影響力」のおかげというほかありません。
 マリオが妻のことを心から慕ってくれているからこそ、その「影響力」が僕にまで及んで、マリオは僕に対しても「力になってあげたい」と思ってくれたわけです。つまり、僕は、妻の「影響力」を借りることで、仕事がうまくいくきっかけをもらったということです。

 さらに、マリオの「影響力」も借りることができました。
 彼女が職場の先輩や同期から「好感」や「信頼」を集めているからこそ、みなさんは“保険屋”にすぎない僕を、まるで旧知の知人のように扱ってくれたのです。
 その結果、僕は、いつものように「無理やり説き伏せる」ようなヘマをすることなく、自然な流れで契約をお預かりしたり、知人のご紹介を受けたりすることができたわけです。

影響力の「正体」とは?

 これに僕は、目を見開かされる思いでした。
 妻はマリオに対する強い「影響力」をもっていましたが、それは、サークルの「コーチと部員」という関係性にあったからではありません。

 我が家にマリオが遊びにきたときのふたりのコミュニケーションを思い浮かべれば、それは一目瞭然。僕が思い出すのは、マリオの話にじっと耳を傾け、親身になって相談に乗り、心を込めて励ます妻の姿であり、そんな妻を深く信頼した様子で、心を開いているマリオの姿です。ふたりの間には、人間同士の「信頼関係」があったのです。そして僕は、その「信頼関係」こそが、「本物の影響力」の正体だと気づいたのです。

 同時に、僕は心から恥ずかしくなりました。
 なぜなら、妻とマリオの「関係性」が、僕とTBS時代の後輩との間の「関係性」とあまりにもかけ離れていたからです。

 僕は、先輩と後輩という「上下関係」を利用して、無理やり後輩に「サインをさせよう」として大失敗をしましたが、妻とマリオの「信頼関係」は、第三者である僕に対してまでも「恵み」をもたらしてくれました。そこには、「偽物の影響力」が僕にもたらした、破壊的で殺伐とした世界とは180度異なる世界が広がっていたのです。

「本物の影響力」は、
人生の可能性を「無限大」にする

 さらに、僕にとって大きな発見だったのは、「本物の影響力」は次々と連鎖して、無限に増幅していくということでした。

 僕にとって、マリオの先輩や同期は初対面。通常であれば、見ず知らずの“保険屋”として、ゼロから相手との関係性を築く努力をしなければなりません。しかし、マリオが彼らから「好感」や「信頼」を勝ち得ていたおかげで、僕は、彼らの前に立った瞬間に“単なる保険屋”ではなく、「信頼できる人間」として認めてもらえたのです。

 これは、ものすごく強力なアドバンテージです。誰かの「本物の影響力」を借りることができれば、仕事は格段に成果を出しやすくなるということ。そして、僕がマリオの先輩や同期との間に「信頼関係」を築くことができれば、彼らの「影響力」をお借りすることで、さらに人脈を広げていくことができるはず。つまり、「本物の影響力」は無限に増幅させることができるわけです。

「自然と人脈が広がる人」と「頑張ってるのに、孤立する人」の違い

 これは、「偽物の影響力」にはできないことです。
「本当はしたくない行動」を強いるようなことをする人間に対して、「自分の影響力」を貸そうとしてくれる人などいるはずがないからです。実際、営業マンとして壁にぶつかっていたあの頃、僕の歩いたあとは人っ子ひとりいない“焼け野原”になっていました。

 クーリングオフをした後輩をはじめ、「僕という存在」を拒絶した人々はもちろんのこと、知人のよしみで保険に入ってくれた人の多くも、その知人を紹介してはくれなかったからです。そして、その最大の原因は、当時の僕が「本物の影響力」ではなく、「偽物の影響力」によって、相手を動かそうとしていたことにあったのです。

 つまり、特別なことをしているわけではないのに、なぜか自然と人脈を広げていく人は「本物の影響力」を選び続けており、一生懸命頑張っているのに、なぜか孤立していく人は「偽物の影響力」に頼っているということ。「偽物の影響力」と「本物の影響力」のどちらを選ぶべきかは、考えるまでもないでしょう。問題は、どうすれば「本物の影響力」を生み出すことができるかということ。僕は、その技術を磨くために試行錯誤を開始したのです(詳しくは、『影響力の魔法』に書いてありますので、ぜひお読みください)。