「何のためにサステナビリティをうたっているのか」
経営陣含め企業全体で認知してほしい

eri Web上で「気候変動基礎クラス」というレクチャーを実施していますが、もっと認知を広めていきたいです。

 その一方で、やはり1人ではできることに限りがあります。私はSNS上で情報を発信しており、それを受け止めてくださる方は大勢いますが、それぞれがどのようにアクションをしたらいいか、個別で悩んでいる。一方的に不安だけをあおっても仕方ないので、今後はコミュニティ・オーガナイジングに力を入れ、危機感を持った人たちが集える場所をつくりたいと考えています。そこで仲間を増やし、より大きなムーブメントにつなげていければと思っています。

――環境問題を議論する際、これまでは「地球温暖化」というワードがよく使われていましたが、最近は「気候変動」というワードに置き換わっている印象です。なぜ「地球温暖化」という言葉はあまり使われなくなったのでしょうか?

eri 地球温暖化は、気候変動に関する複合的な問題のひとつです。「温暖化」のみを焦点とすると、問題が矮小(わいしょう)化されてしまう恐れもあります。温暖化対策というのは、インフラ等が充実してきた先進国と比較し、資金や技術が不足する途上国にとっては不利であり、国際的な人権問題やグローバルサウスにも関わってきます。こうした「不正義」を正した上で、対策をすべき問題です。

 誤解のない文脈であれば使うこともありますが、そのため、私たちは「気候変動」と表現したり、今はさらに事態の深刻さが加速しているので、「気候危機」と表現したりすることも増えてきています。

――近年、企業による「グリーンウォッシュ」が問題になっています。企業へ伝えたいことはありますか?

eri 3点あります。いずれも「整合性」に関してです。

 ひとつは、「自社は何のためにサステナビリティをうたっているのか」を企業全体で理解・認識してほしいということです。

「カーボンニュートラル」という言葉だけがひとり歩きし、現状でできる範囲のことしかやろうとしていない企業が多いように感じます。大企業がこれでは、「気温の上昇を1.5℃に抑える」という目標に対しての整合性がほとんどないのではないでしょうか。

 世間の目は厳しくなり、「サステナビリティ」をうたわないと企業が生き残れない時代になりました。そのため、社内研修などで、「自社は何のためにサステナビリティをうたっているのか」「現状、世界はどうなっており、自社の(サスティナビリティに関する活動の)状況はどうなっているのか」を、経営陣含め企業全体できちんと考えてほしいです。

 今の小学生はSDGsなど環境問題を考える授業がありますが、一方で大人が最新の状況を知るための教育が圧倒的に足りていません。エシカルやエコをなぜ意識するべきなのか、危機感の共有がないと、目標や目的がぶれてしまう気がするんです。

 もちろん、企業が大きくなるにつれて経済優先となることもわかるのですが、私も小さな企業の経営者ではありますが、企業がこの先、長く続くためには、絶対に取り組まなければならない問題だと思うんです。

 2つめは、グリーンウォッシュはやめてほしいということです。

 グリーンウォッシュ、つまり、実体が伴なっていないのに、「環境にプラスである」というイメージを、商品やブランドに与える行為は、(人々がそれを良い商品だと思って買うことで)気候変動を加速させる要因にもなってしまいます。

「たとえグリーンウォッシュでも関心を持つきっかけになればいいじゃないか」という意見もありますが、グリーンウォッシュというのは、社会の気候変動に向けた歩みを止めていると自覚すべきです。これは研究でも明らかになっています。

 3つめは、インフルエンス力の適切な行使です。

 世間の人は目が肥えているので、「こういうことをしていきます」「こういうことができます」とただ示されても、もはやその企業を信頼することは難しい。ですので、「今、自社は何ができていないか」(できていないこと)、「それに対するソリューションはこういうものを考えている」(しようとしていること)、「いつまでに解決できそうか」(できること)、この3つをしっかりと開示してもらいたいです。

 受け取る側は取り組みをきちんと見ていますし、整合性のある行動をとることで、その企業への信頼性や共感も増すはずです。

ファッションだけが「自己表現」ではない
「選択」こそが自己表現

――エシカルなライフスタイルや、サーキュラーなモノづくりというのは、金銭的にゆとりのある一部の人のみができることで、生活に余裕のない人はそこに意識を向けることはなかなか難しいのではないでしょうか?

 私自身が実践していく中で、「自分がどうありたいか」「どうしたいのか」をきちんと考えるようになりました。何を買うか、何を食べるか、どこへ行くか、何をするかといったことを、これまでいかに考えずに生活していたかに気づいたんですね。

 自分で考えて選択したものに囲まれた生活をすると、たとえ忙しくても、生きている実感がきちんと持てるようになったような感じがして、ライフスタイルのクオリティがすごく上がりました。ひとつひとつ丁寧に選択することで、無駄なものも買わなくなったので、長期的な視点でお金を節約できるようにもなりました。

 私たちは、買い物をする際、「お金を落とした先に何があるのか」に、もっと意識的になる必要があると思うんです。1枚のTシャツを買うにも、それがリサイカブル(再利用可能なもの)なのか、リサイクルマテリアル(原材料として再利用できるもの)なのかとか、どのような生産・労働環境で作られているものなのかとか、できるだけ調べて、納得した上で購入する。

「買い物は投票だ」とよく言われるように、ファッションに限らず「何を買うか」の選択は、社会のあり方に密接に結び付いているんです。自分の「1票」を過小評価してほしくないのです。買い物というのは、自分が社会を作っている一人であることを認識する機会でもあります。そのことを少し意識するだけでいいんです。きれいに着飾るファッションだけが自己表現ではなく、その「選択」こそが自己表現なのだと思います。