サスティナブルの文脈が
古着の再ブームに力を与えている

eri氏左Photo by Teppei Hori

eri これまで古着は定期的にブームがありましたが、今回はサスティナブルの文脈が非常に力を与えていて、これまでのブームとはタイプがだいぶ異なる気がしています。

 今まで古着を着なかった人も着るようになったりと、服を選ぶときの選択肢のひとつとして定着しつつある印象です。

 ファストファッションがはやり始めたとき、どのような形にせよ、いつか終わりが来ると思っていました。環境にも良くない、(生産時の労働環境など)人権的にも多くの問題を抱えている、何より、右も左も同じような服を着ている人たちで個性も出ない。このことに皆が気づき始めるときが来るはずだと。

 今は、安いしかわいいものもあるので飛びついているかもしれませんが、人間というのは良くも悪くも欲深いもので、「人と違うものが欲しい」「人と違うものを身に着けたい」という欲がいずれ高まってきます。

 とはいえ、質が高いものはやはりそれなりに値段が張ります。1度安価な服を手に入れると、いきなり高品質の服に手を出すことは難しい。そのため、使い捨てのファストファッションから、長く着続けられる高品質の服への、移行段階のグラデーションの中に、レギュラーと呼ばれる価格帯の古着は位置付けられると考えています。実際に近年、そのような傾向が高まってきています。

 ファッションは自分の内面を表現するものでもあります。特にこの10年ぐらいは、ファッションでもメイクでも、人々が自身の個性を伸ばすのではなくて、他社や世の中が求めている像に自身の個性を曲げて結び付けていく、そのような風潮があったように思えます。

 今は「自分を自由に表現できる服を着たい」「ワン・アンド・オンリーのものを着て自己表現したい」という感覚を持つ人が増えてきています。本来、ファッションというのはそういうものですよね。そうした意味でも、古着という選択肢には可能性があると思っています。

――「メルカリ」のようなフリマサービスについてはどのような印象をお持ちですか?

eri フリマサービスの隆盛はとてもいいことだと思います。アプリやWebのサービスでも、リアル開催でも、フリーマーケットはどんどん増えてほしいですし、リサイクルの選択肢がもっともっと増えるといいなと思っています。

 アメリカでは古着の回収システムが確立されていて、不要な服を「Recycle Bin(回収ボックス)」に入れると、リサイクルだったり、セレクトショップやドネーション(※寄付)団体へ送られたりします。

 日本では不要になった服はほとんどが可燃ゴミとして焼却されます。自治体で不要な服を回収しても、水平リサイクル(※いったん資源に戻した後、リサイクル前と同じ製品として生まれ変わらせるリサイクル方法)のために、再販できるものを仕分けし、残りは繊維の種類によって仕分けします。数種類の繊維が混じっているものはウエス(※布切れ。ふきんや雑巾、クッション材など)となります。手作業の仕分けには莫大な人件費がかかるんです。ですから行政も積極的に回収できない。

 実際、服というのは、数種類の素材が混紡されているものがほとんどです。でも素材の分離技術が確立されていないため、リサイクルのためのインフラがまだどの国も整っていないんです。

――環境問題のソリューションとして注目しているものはありますか?

eri パリ協定で示された目標を到達できる規模のものがあるかというと、かなり厳しい状況です。そのレベルのポジティブなムーブメントはまだ起きていません。でもその中で、オルタナティブなテクノロジーだったり、素材開発だったり、新しい法整備だったりと、可能性を秘めたウィンというのは、それぞれの分野で数多く生まれています。

 例えば、エネルギーの分野です。世界的に石炭や火力発電を抑え、再生可能エネルギーへシフトしていかなければならないという流れになってきていますが、自然エネルギーも太陽光、風力、水力、地熱とある中で、それぞれにメリットとデメリットがあります。そうした中で、スペインのスタートアップ、Vortex Bladeless社が開発した、プロペラのない風力発電は、設置場所やコスト、メンテナンス、発電量、騒音、野鳥がプロペラに巻き込まれてしまう問題などを、一気に解決しています。

 また、最近アメリカで、ラボ肉(※動物の細胞をもとに育てられた培養肉)の食用販売が認可されました。「通常のお肉ではなくラボ肉を食べる世の中」と考えると悲観的に思えますが、「培養肉という選択肢が(お肉のラインアップに)新たに加わった」と考えると、これからの社会に新たな可能性が開け、前向きなマインドセットに切り替えることができると思います。

 あるいは、韓国では、食品廃棄物のリサイクル率が、1995年は2%未満だったのが、食品廃棄を削減するために積極的に取り組んだ結果、現在は95%を達成したといいます。

 コンビニや自治体から生分解性(※微生物などの働きによって分解する性質)の専用ゴミ袋を買って、そこに生ゴミを入れます。回収後、飼料やバイオマスなどに変わる仕組みが確立されたのです。その専用のゴミ袋を買ったお金もリサイクルの費用に充てられるんです。集合住宅には、生ゴミ専用のマシンが設置され、チップが埋め込まれたカードでタッチするとふたが開いて生ゴミを捨てることができます。マシン側に重量が記録され、捨てた分だけ払う従量課金制が導入されています。

 このように、行政を巻き込んでのインフラの整え方など、日本が他国に学べるところは大いにあるのではないでしょうか。