「棚」に「餅」をたくさん置かなければ、
「棚からぼた餅」は落ちてこない

 僕の経験をお伝えしましょう。
 僕は、プルデンシャル生命保険の営業マンになりたてのころ、「なんとか売上をあげよう」という思いに駆られて、TBS時代の後輩に無言のプレッシャーをかけることで契約してもらうという「痛恨の失敗」をしたことがあります(詳しくは、こちらの記事)。翌日、後輩から会社にクーリングオフの連絡が入っただけではなく、謝罪をしようと電話をすると「着信拒否」になっていました。つまり、「先輩-後輩」という関係性を背後に、間違った形で「影響力」を使ったために、僕は大事な人間関係を根本から断たれるという大失敗をしてしまったわけです。

 そして、「このままではダメだ」と心の底から思った僕は、営業スタイルを抜本的に改める努力を始めました。一言で言うと、「売ろうとするのをやめる」ということ。それよりも、お目にかかるお客様から、「こいつは信頼できそうだ」「こいつと付き合っておこう」などと思ってもらえることこそが営業の目的だと思い定めたのです。

 そのときはご契約いただけなかったとしても、「保険に入るなら、金沢から入ろう」と思っていただければ、その方が「保険に入ろう」と思われたときには、真っ先に僕に連絡をしてくださるはずです。あるいは、その方の親族や知人に保険が必要な方がいたら、僕を紹介しようと考えてくださるに違いありません。

 もちろん、保険に入ってくださるのは、1年後かもしれないし、5年後かもしれないし、10年後かもしれません。もしかしたら、ずっと入ってくださらないかもしれない。だけど、それでいい。とにかく、「僕という人間」を信頼してくださる方々――ささやかではあっても「本物の影響力」を及ぼすことができる方々――の「母数」を増やすことが大切だと腹をくくったのです。

 そこには、僕なりの勝算もありました。
 営業は「確率論」です。「僕という人間」を信頼してくださる方の「母数」が増えれば、無理に「売ろう」としなくても、必ず、僕に「保険に入りたい」と連絡をくださる件数は増え、成約件数が増えていくはずだと考えたのです。

「棚からぼた餅」という言葉がありますが、「ぼた餅」が定期的に落ちてくるように、「棚」にせっせと「餅」を並べておくイメージです。「あいつは”棚からぼた餅”でラッキーだな」と考える人もいますが、実は、コツコツと「餅」を並べている人間にしか「ぼた餅」は落ちてきません。「幸運」というものは、常に人から人へもたらされます。だから、「信頼関係」をコツコツと積み重ねている人こそが、「幸運が訪れる人」になれるのだと信じたのです。

 そして、これが大正解でした。その後、コツコツと「母数」を増やし続けることによって、たしかに成約件数が増加。営業マンになって早々、大きな壁にぶつかったのが嘘のように、入社1年目にしてプルデンシャルの個人営業部門で国内ナンバー1の成績を収めることができたのです。

まず「身近な人」から始めて、
コツコツと「信頼関係」を蓄える

 ただ、想定外のことも起きました。
 想像もしてなかったような「幸運」が訪れたのです。

 営業マン1年目のときに、ある人物に紹介された若い起業家とのエピソードをご紹介しましょう。
 最初にお目にかかった頃、その方のビジネスはまだ軌道には乗っておらず、悪戦苦闘が続いている状況でした。それもあって、保険には入ってはいただけなかったのですが、僕は、その方のビジネスに好影響を及ぼしそうな事業家や経営者を紹介するなど、お付き合いを続けていました。

 すると、ある時、彼からこんなメールが送られてきました。
「今期の利益がとんでもないことになりそうなんです。決算対策をしたいんで、相談に乗ってください」

 お目にかかってお話を伺うと、ずっと仕掛けていたビジネスがついに軌道に乗って大ブレイクしたと言います。
 そして、「金沢さんには、いろんな方をご紹介いただいて、そのおかげでチャンスを切り拓くことができました。本当にありがとうございます」とお礼を言われたうえで、高額の保険契約をお預かりすることができたのです。まさに、彼に対する影響力が「形」となって現れたと言ってもいいでしょう。

 しかも、起業家として成功を収めた彼は、僕に次々と親交のある経営者などを紹介してくれるようになりました。そのおかげで、営業マンとしての僕の人脈は劇的に拡大し、僕の「影響力」も格段にパワーアップしていったのです。

「足し算」を積み重ねるから、大きなレバレッジが効く

 当初、僕はこんなことが起きるとは思っていませんでした。
 しかし、こうした「幸運」は何度も僕のもとに訪れました。コツコツと「足し算」で「母数」を積み上げていると、あるとき思わぬ形で「掛け算」が起きるのです。

 100の「母数」で1回の「掛け算」が起きるとすれば、「母数」を1000に増やせば、「掛け算」は10回起きると言えるかもしれません。また、1の「母数」に100を掛けると100ですが、100の「母数」に100を掛けると10000にもなります。とにかく「母数」を「足し算」で積み重ねることが重要であり、そのことにより「掛け算」する機会も増え、いざ「掛け算」するタイミングがきた時には、より大きなレバレッジを効かせることにもなるのです。

 だから、僕は、「手っ取り早くインフルエンサーになる方法」や「手っ取り早く影響力を増幅させる方法」を求めるのではなく、まずは、身近な人から始めて、コツコツと信頼関係の「母数」を増やしていくことが大切だと考えています。そして、「本物の影響力」を及ぼすことができる相手を増やしていくことができれば、いつか必ず、「影響力」を劇的に増幅させるチャンスが訪れるのです(詳しくは、『影響力の魔法』に書いてありますので、ぜひお読みください)。