上司の承認を得たり、部下に仕事を進めてもらったり、お客様にお買い上げいただいたり……ビジネスにおいて「相手の理解を得て、相手に動いてもらう」ことは必須のスキルです。そこで、多くのビジネスパーソンは「理屈で説得しよう」と努力しますが、これが間違いのもと。
なぜなら、人は「理屈」では動かないからです。人を動かしているのは99.9999%「感情」。だから、相手の「理性」に訴えることよりも、相手の「潜在意識」に働きかけることによって、「この人は信頼できる」「この人を応援したい」「この人の力になりたい」という「感情」を持ってもらうことが大切。その「感情」さえもってもらえれば、自然と相手はこちらの意図を汲んで動いてくれます。この「潜在意識に働きかけて、相手を動かす力」を「影響力」というのです。
元プルデンシャル生命保険の営業マンだった金沢景敏さんは、膨大な対人コミュニケーションのなかで「影響力」の重要性に気づき、それを磨きあげることで「記録的な成績」を収めることに成功。本連載では、金沢さんの新刊『影響力の魔法』(ダイヤモンド社)から抜粋しながら、ゼロから「影響力」を生み出し、それを最大化する秘策をお伝えしてまいります。

「運のいい人」が、日々ひそかに積み重ねている“たった一つのもの”とは?<br />写真はイメージです。Photo: Adobe Stock

コツコツと「足し算」をするから、
「掛け算」で大化けする瞬間が訪れる

 今の時代、「影響力」という言葉から真っ先に連想されるのは、「インフルエンサー」という言葉かもしれません。
 ご存じのとおり、インフルエンサーとは、有力ユーチューバーのように、世間や人々の思考・行動に大きな影響を与える人物のことですから、まさに「影響力の魔法」の最強の使い手と言えるでしょう。

 そして、もしかすると、私の新著『影響力の魔法』というタイトルを見た方の中には、「手っ取り早くインフルエンサーになる方法」が書いてあると思った方もいるかもしれません。
 しかし、その方々には申し訳ないのですが、それはこの本がめざすものではありませんし、おそらく、そのような方法など存在しないか、存在したとしても、ほんの一時成功する方法に過ぎないのではないかと僕は考えています。

 もちろん、僕自身は、いわゆるインフルエンサーではありませんから、本当のところはわからないのかもしれません。
 ただ、僕は、有力ユーチューバーやテレビなどで長期間にわたって影響力をもつ著名人ともお付き合いをさせていただいていますが、そうした方々の生き様を見ていると、「手っ取り早くインフルエンサーになった」という人は皆無と断言できます。

 むしろ、みなさんに共通しているのは「コツコツ積み上げる」という姿勢です。
 例えば、ある有力ユーチューバーが、その知名度を劇的に上げたのはテレビ出演で注目を浴びたのがきっかけでした。テレビで築いた知名度を背景に、ユーチューバーとしての地位を確立されたのです。

 いわば、「テレビ出演」というビッグ・チャンスをものにすることで飛躍的なステップアップを実現したわけですが、これは決して「手っ取り早くチャンスを掴んだ」ということではありません。事実は、全くの逆。

「運のいい人」が、日々ひそかに積み重ねている“たった一つのもの”とは?<br />金沢景敏(かなざわ・あきとし)
AthReebo(アスリーボ)株式会社 代表取締役
1979年大阪府生まれ。早稲田大学理工学部に入学後、実家の倒産を機に京都大学を再受験して合格。京都大学ではアメリカンフットボール部で活躍、卒業後はTBSに入社。スポーツ番組などのディレクターを経験した後、編成としてスポーツを担当。2012年よりプルデンシャル生命保険に転職。当初はお客様の「信頼」を勝ち得ることができず、苦しい時期を過ごしたが、そのなかで「影響力」の重要性を認識。相手を「理屈」で説き伏せるのではなく、相手の「潜在意識」に働きかけることで「感情」を味方につける「影響力」に磨きをかけていった。その結果、富裕層も含む広大な人的ネットワークの構築に成功し、自然に受注が集まるような「影響力」を発揮するに至った。そして、1年目で個人保険部門において全国の営業社員約3200人中1位に。全世界の生命保険営業職のトップ0.01%が認定されるMDRTの「Top of the Table(TOT)」に、わずか3年目にして到達。最終的には、TOTの基準の4倍以上の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な数字をつくった。2020年10月、プルデンシャル生命保険を退職。人生トータルでアスリートの生涯価値を最大化し、新たな価値と収益を創出するAthReeboを起業。著書に『超★営業思考』『影響力の魔法』(ダイヤモンド社)。営業マンとして磨いた「思考法」や「ノウハウ」をもとに「営業研修プログラム」も開発し、多くの営業パーソンの成果に貢献している。また、レジェンドアスリートの「影響力」をフル活用して企業の業績向上に貢献し、レジェンドアスリートとともに未来のアスリートを育て、互いにサポートし合う相互支援の社会貢献プロジェクト「AthTAG」も展開している。■AthReebo(アスリーボ)株式会社 https://athreebo.jp

 その方は、テレビ出演というチャンスを掴むまでに、無数とも言うべき人々に会って、自分のもつ能力を伝えるとともに、彼らとの信頼関係を築き続けました。「こいつはなかなか面白い」「こいつは信頼できそうだ」「こいつにチャンスを与えてみたい」と思ってくれる人の「母数」を増やし続けたのです。

 そして、そうやってコツコツと「母数」を増やし続けるうちに、そのなかのひとりの人物が彼をテレビ関係者に紹介。そこから、彼にビッグ・チャンスが訪れ、彼は、そのチャンスをものにしたわけです。

 傍目には、テレビ出演によって彼が手っ取り早くチャンスを掴んだように見えるのですが、その背後には、彼がコツコツと増やし続けた信頼関係の膨大な「母数」があったのです。

 つまり、目の前の人に対する「影響力」をコツコツと「足し算」することによって、千載一遇のチャンスが訪れ、一気に「影響力」を高めるような「掛け算」が起きるということ。これは、僕がお付き合いさせていただいているインフルエンサーに共通することですし、僕が営業マンとして体験したことにも通じる「真理」だと思うのです。