2008年の狂牛病騒ぎの時とは何が違うのか
尹政権が保守政権で日本との関係改善に重きを置いていることから、今回の処理水の件については国内、さらに日本との関係に波風が立たないように慎重になっている様子がうかがえることに加え、SNSなどで拡散される真偽不明の情報や写真などに対して「フェイクの情報に惑わされないように」と国民に呼びかけたり、野党や市民団体の批判に毅然と対応したりという印象がある。
今回、韓国国民が冷静な反応をしていることについて、過去にも度々起こった歪曲(わいきょく)報道やデマの拡散によって世論が混乱、翻弄されたことへの免疫と学習能力が付いたとする見方もある。
似たような事象として名前が挙がるのは、2008年のBSE(狂牛病)問題である。この時には、一部マスコミと左派系市民団体が虚偽の情報を拡散したことにによって、米国産さらには牛肉全体への安全性のイメージが低下し、風評被害が広がった。この他、旅客船セウォル号の沈没事故や、昨年の梨泰院(イテウォン)の群衆事故が起きたときにも、危機管理の杜撰(ずさん)さなどを槍玉に挙げて、政権批判やデモが繰り広げられた。セウォル号については、当時の朴槿恵(パク・クネ)政権へのダメージにつながっていったことは言うまでもない。
このように、保守政権のときに大きな事件や事故が起きると、左派政党や左派市民団体によって、政権批判や政治対立の火種がまかれる。これは韓国では“お約束”になっている。しかし、前述のBSE問題や、反日「NO JAPAN」キャンペーンの時に“ターゲットに対してはなりふり構わず何をしてもいい”という公平さやモラルを欠いた手法に異を唱える人や、若い世代を中心に中国や北朝鮮寄りの文前政権や「共に民主党」の姿勢を嫌う人たちは増えている。過去に韓国で起きた騒動に比べると、尹政権になってから起きた梨泰院の群衆事故や今回の処理水問題では、政権批判デモに対する世論の関心は薄いといえる。