「広告っぽくない広告」でブランドの価値を伝える
一橋大学社会学部卒業後、P&Gジャパンに入社。レキット・ベンキーザー・ジャパンを経て、ジョンソン・エンド・ジョンソン入社、マーケティング本部長に就任する。2017年にはJohnson & Johnson 香港現地社長に就任。2018年にFOLIO入社。CMO(最高マーケティング責任者)、副社長を歴任する。2020年よりレノボ・ジャパンのCMO。2023年7月よりサニーサイドアップ代表取締役社長に就任。
──お話を伺っていると、確かに「良好な関係性を生み出す」という本来の意味でのPRの視点は、多様なコミュニケーション手段を使いこなす上で重要ですね。
そうなんです。PRというと「メディア露出を増やすことでしょ」と狭く解釈されがちですが、大事なのはあくまで「リレーションシップが築けるかどうか」。PR発想で課題を掘り下げると、売り上げアップに必要なものが明確になり、結果的にいろんな施策がストーリーとしてつながります。SSUは販促用のグッズ開発も得意なんですが、これも、SNSでどうバズらせて、どの層で話題化するかまで見据えているから、「ただモノを配っただけ」に終わらず、売り上げに貢献できるのです。
企業にとっても生活者にとっても、コミュニケーションのニーズが、どんどん「広告っぽくない広告」にシフトしています。先日も、クライアントのグローバル企業の広報の方から「テレビCMをやめる」という話を聞きました。現代の生活者は、もはやサステナビリティのないブランドは愛さないし、モノそのものの機能性や品質以上に「ブランドや会社がどんな存在か」を重視します。こうしたメッセージは、商品広告だけでは伝わらなくなっているのです。
──長期的な姿勢を示すためにパーパスを策定したのはいいけれど、今度はそれを十分に浸透できなくて悩む企業も少なくありません。
パーパスは、社員一人一人が心から納得して代弁者になって初めて会社が変わります。ビジョナリーといわれる企業のリーダーは、同じことを10年ぐらいしつこく言い続けていますよね。インナー向けのコミュニケーションでは量と頻度がとても重要です。だからといって偉い人が延々とパワポでプレゼンしても社員にとっては苦痛なだけです。SSUはコミュニケーションのプロの集まりなので、社内発表会もめちゃくちゃ楽しいんですよ。社会とリレーションシップを築くためには社内広報も非常に重要なので、こうしたノウハウもぜひクライアントに提供していきたいと思っています。
──これからのチャレンジについて教えてください。
ビジネスアイデアはいっぱいあるんですが、そのためのファーストステップは「社内の忙しさをなくすこと」です。忙し過ぎると新しいことにチャレンジできません。全社的に業務を見直しつつ、バックオフィス部門の採用を強化するなど人材に投資し、余裕を持って働ける環境を整えます。
また、私自身の大きなミッションが「SSUのマーケティング」です。PR会社は基本的に黒子なので自社のPRをしたがりませんが、外部から入社してみると「こんなに魅力があるのに、なんで教えてくれなかったの」と思うことがいっぱいあります。今って、いいものがあるだけじゃ駄目で、知らされて初めて価値になる時代です。悪いものをよく見せる必要はありませんが、良さをちゃんと世の中に広げるのは大事です。
──SSUが自ら発信していけば、ブランドコミュニケーションの良い事例を示すことにもつながりますね。
今、1人のマーケターとしてもワクワクしているんです。これまではマーケ部門の責任者という立場でしたから「営業をこうしたい」とか「経営のここを変えたい」と思っても、守備範囲の壁に阻まれてなかなか実践できませんでした。社長ならどこまでもやれるし、全てを背負えるからストレスがありません(笑)。会社としても、個人としても枠を超えて進化したい。そして、どんどん世の中を楽しくしたいと思っています。