日本株と景気に「自律性」をもたらしかけたインフレ、米国経済次第の動向は変わるかPhoto:PIXTA

コロナ禍で不可抗力的にもたらされたインフレは、「悪いこと」という心象が強いだろう。しかし、消費者の目がイヤイヤながら値上げに慣れるにしたがって、企業は値上げを進め、名目で売り上げを伸ばし、インフレ益を得て、賃金も上げる流れになっている。インフレで名目GDP(国内総生産)が膨らむ中で、企業の改革機運も生まれ、株高にもつながり、日本の自律性が芽生えつつある。しかし、この自律性も米国経済の事情という他律を免れてはいない。(楽天証券グローバルマクロ・アドバイザー TTR代表 田中泰輔)

米国の事情で説明できた
日本の経済と市場の動向

 長年にわたり、日本の景気も、株式相場も、ドル円も、米国側の事情で8~9割説明できた。投資ストラテジストとして、日本自体の分析は、2012年暮れからのアベノミクスによる安倍相場以外、ほぼしたことがない。日本には自律性がないと言っても過言でない状況が続いていた。

 それが今変わるかもしれない、千載一遇のチャンスが来ている。

 日本の経済にも市場にも自律性がなかったというと、奇をてらった極論のように思われるかもしれない。しかし1990年代以降、失われた10年、20年と言われる時を過ごす中で、実質GDP(国内総生産)成長率は平均で0%近くにとどまった。

 やがてデフレ色が強まり、物価も上がらなくなった。こうして四半世紀にわたり、日本経済は実質でも名目でも成長しなかった。

 企業の業績は名目で計上される。たとえ、実質成長率が長く0%でも、インフレに見合って値上げをしていれば、売上高は伸びるし、名目での利益を増やすことも可能だ。

 しかし、日本はそれすらもなくなった。企業は需要の伸びも収益増の見込みも乏しい国内では投資を抑制し、貯蓄をため込み、賃金を抑え、守りの姿勢で凝り固まっていった。

 名目GDPすら伸びず、横ばいにとどまるという状況では、株価も上がらなくなった(下の図表参照)。

 内外のリスクマネーが日本の株式市場に入らなくなり、株式相場は横ばいどころか、10年、20年とじり安ですらあった。

 こうした状況下、日本の経済と株価がいかに他律的であったか、これから自律性を取り戻せるのかを次ページ以降検証していく。