経営者になるくらい頭のいい人なら、ものごとを合理的に考えたり、株主に対して誠実に接するというのは、それほど難しいこととは思えません。それなのに、なぜ多くの経営者は実行できないのでしょうか。

 バフェットは、それを「横並びの慣例」という言葉で説明しています。なにやら難しい言葉ですが、簡単にいえば、ついつい誰かのモノマネを
してしまうということです。

 バフェットは人間の心理に興味を持ち、投資家や経営者が見せる不可解な行動を心理面から解き明かそうとしてきました。そして、彼らの特徴を人々にわかりやすく紹介するために、あるとき、次のような寓話を伝えています。

 「石油の採鉱者が天国に召され、聖ペテロから『あなたが天国に住むことは認められたが、石油関係者の居住地区はいま一杯で、あなたを入れることはできない』と告げられました。

 その男はしばらく考えてから、現在の住人たちにごく短い言葉を伝えてもよいかと聞きました。その程度なら害がないだろうと、聖ペテロは許可しました。するとその男は口に手を添えて、『地獄で石油が見つかったぞ!』と叫んだのです。とたんに居住地区の門が開き、石油関係者が列をなして地獄へ向かって行きました。

 聖ペテロは感心してその男を招き入れると、くつろぐように言いました。ところが、その男は立ち止まって、『いえ、私も他の連中と一緒に行くことにします。あの噂が本当になるかもしれませんからね』と答えました」

経営者が「横並びの慣例」に従う理由

 思わず吹き出してしまう話ですが、バフェットはこの「横並びの慣例」が人生のなかでも最も驚くべき発見だと語っています。優秀で頭がいいはずの経営者が、ビジネスの世界では、なぜか「横並びの慣例」によって理性を欠いてしまうのです。

 これは日本の会社を見ても、同じことがいえます。たとえば、ある会社がリストラで高い成果を上げていると知ると、さまざまな会社がこぞってリストラに取り組みました。その後、社員のモチベーションが何よりも大切という風潮になると、モチベーションの大合唱が始まりました。本当にそれを信じて自分の考えで実行しているならよいのですが、他社のモノマネをしているために成果が一向にともなわない例も少なくないようです。