たとえるならば、型を身につける前の失敗が、「構造的に失敗するようなことをやってきたゆえの失敗」である一方、型が身についてからの失敗は、「正しい試行錯誤としての失敗」という感じだ。

 構造的に失敗するようなやり方を何百回繰り返しても、それは必ず失敗に向かうが、正しい試行錯誤を重ねれば一定の確率で成功する。そういう意味で、エムアウトの創業期に田口さんに言われた「新規事業は基本的に全部同じだと思え」という境地にやっとたどり着いたのである。

 そんな私を見て、田口さんは「そろそろだな」と思われたのかもしれない。ある日突然呼び出され、「独立したらどうだ?」とすすめられた。ただ、私としては田口さんに添い遂げるつもりでいたので、「そのつもりはありません」とお断りしたが、「でも、田口さんが言うのなら、それが正しいのだろう」と思い直し、100日後に守屋実事務所を立ち上げることとなる。

 独立後、最初に参画したのは、創業間もない「ラクスル」だった。

 創業者の松本恭攝(まつもとやすかね)さんは、起業前はコンサルティングファームで働いていた。いくつかの会社のコスト削減プロジェクトに従事することになり、そのときに印刷業界の非効率性からくる印刷コストの高さに問題意識を抱き、業界の構造を変えたいという考えに行き着いたそうだ。

 そんな松本さんと守屋が出会うまでのストーリーは、こうだ。

 コスト削減プロジェクトの客先企業の費用に印刷代があると、たいていは相見積もりをかけるだけで、その費用を大きく下げることができた。プロジェクトとしては成果を出しやすい都合のよい話だったのだが、その現象が度重なっていくうちに、そもそも印刷代の価格設定に疑問をもつようになった。