柱と梁が入り組んで自由の利かない木造住宅は、今や昔の話。木造住宅の最先端では、耐震性の向上はもちろん、RC・鉄骨並みの自由度の高い設計が可能になっている。

住生活ジャーナリスト
田中直輝

1970年生まれ。福岡県出身。早稲田大学教育学部卒業。海外17ヵ国を一人旅した後、98年から約10年間にわたって住宅業界専門紙・住宅産業新聞社で主に大手ハウスメーカーを担当。2007年より住生活ジャーナリストとして、戸建てはもちろん、不動産業界までも含め、幅広く“住宅”について探求。

 総理府の世論調査(平成23年度「森と生活に関する世論調査」)によると、日本人の8割は、今後、住宅を建てたり、買ったりするなら木造住宅にしたいと考えているという。

「木造住宅の人気は、確かに高い。その中でも最近の注文住宅においては、“その家でどのように暮らすのか”というライフスタイルに合わせた設計、設備が主流です。特に東日本大震災以降は、『家族の絆』を意識して家族全員が集まれるスペースのある家がトレンドになっています」

 と説明するのは、住生活ジャーナリストの田中直輝氏だ。

 大人が一抱えするような太い柱や梁を使った古い日本家屋は、障子や襖を開け放って2~3部屋を一つの大空間にすることができ、家族だけでなく、親戚や近隣の人など多くの人が集まれるスペースをつくることができた。しかし、現在の木造住宅は、柱や壁が多く、一つひとつのスペースが独立していることが多い。そんな中で、家族の集まるスペースをどこまで確保できるのだろうか。

「最近の木造住宅のもう一つのキーワードが『耐震性』です。阪神・淡路大震災で倒壊したイメージが大きく、耐震性を不安視する方も多いのですが、技術の進歩や1981年の新耐震基準の施行などで、木造においても耐震性に対する法体制が整ってきています」

技術の進化で耐震性が向上 

 ある住宅メーカーの調査によると、住宅の建設・購入を検討している人たちの“家選び”の3大要素は「価格」「立地」「間取り」であり、その次に「耐震性」を求める。約4割の人は、“耐震性を中途半端にすると、地震の際にたとえ倒壊しなくても、補修や補強工事などで結局お金がかかる”と考えている。そのため過半数の人が、間取りや広さ、デザイン性などを犠牲にしても、耐震性を確保する傾向があるという。しかし、田中氏は最近の木造住宅では、それらを両立することが十分可能だと言う。

 従来の在来工法(木造軸組工法)は、柱と梁と筋交い(柱と柱の間に斜めに取り付けた部材)で支えられた家屋で、「線」と「点」で躯体を構成するもの。通気性がよく、木そのものによる湿度調整機能を生かすことができる。ツーバイフォー工法は、床・天井・壁といった「面で支える」住宅で、機密・断熱性に優れている。そして、耐震性を高めるためには、柱や壁が増えても仕方がないと考えられてきた。しかし、近年では、木造住宅への人気から、大手ハウスメーカーが在来工法やツーバーフォー工法を基本にしながら、パネル工法やツーバイシックスなど、高耐久性を実現し、耐震性能に優れる独自工法を開発している。

「現在国内には約5万の工務店があり、住宅づくりにおいて大手ハウスメーカーのシェアは全体の2割ほど。ほとんどの住宅は、地域の工務店が手がける木造住宅です。しかし、工務店が手がける場合でも、従来は未乾燥で品質の安定してない木材を使っていたものを、現在は一部で品質の安定した集成材を使用。しかもプレカット工場で設計図通りに木材が加工されるために、職人による技量の誤差が出にくい。木材加工の技術や精度が上がっただけでなく、接合部には特殊金物を使用するなどして補強されることが多くなり、構造計算もRCや鉄骨並みに行われるケースにも注目が集まっています」